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つるべ落とし

柿


 「こんな時間に夕飯を食べるなんて考えられないわね。この時間、ついこの間まで、お父さん、畑にいたわよねえ…」


 「そうだよなあ~・・・」


 防災無線から、毎日6時に鳴らされるチャイム「花かげ」のメロディーが。居間の薄型テレビからは民放の夕方のニュースが流れていた。いつものように晩酌をする私に、かみさんはそんなことを言いながらビールを注いだ。




 秋の陽はつるべ落とし、と言う。暑い、暑いと言ってみんながうんざりしていた、ついこの間から比べると少なくても2時間は日が短くなった。これからまだ短くなるのだろう。


秋



 「お父さん、こんなに日が短くなると、何か損をしたような気分になるわねえ。この時期の旅行は絶対、損よねえ」


 「そうだよなあ~・・・」


 「お父さん、私の言うこと、聞いているの?」


 かみさんは一人でしゃべって、一人で怒っている。



 庭先の柿は、まだ食べるには早いが、黄色く色付き、畑のリンゴ(ふじ)も赤みを増した。沢山ある甲州百目(柿)も枯露柿づくりの時期を待つ。収穫を終えた巨峰やピオーネの葡萄棚は日に日に黄色くなり、枯葉へと一直線。朝晩は寒くなって、我が家ではもう炬燵を。視覚的にも感覚的にも、否応なく秋の深まりを実感させられるのだ。

 
枯露柿



 そんな中で今を盛りに咲く庭先のアサガオだけが、いかにもミスマッチ。無粋な私には何と言うアサガオなのか分からないのだが、時々やって来るモノ知り?の仲間によれば「琉球アサガオというのだそうだ。窓越しに長さ10m、高さ3mぐらいに仕立てた≪緑のカーテン≫のあっちこっちで次から次へと花を付ける。直径15cmから20センチもある紫色に近いブルーの大輪。アサガオ(朝顔)と言いながら昼間も咲いているのだ。時間帯によって赤くもなる。



アサガオ


 「秋の陽は釣瓶(つるべ)落とし」。先人達はうまいことを言ったものだ。詳しいことは、いつもこのブログにお出で頂き、季節風土記にめっぽう詳しい山形にお住いのmatsuyamaさんにお任せすることにするが、昼と夜の時間が等しい「秋分の日」を境に昼の時間がどんどん短くなる。まるで釣瓶のようにストーンと落ちるのである。




 もっとも、釣瓶などと言うものを今のお若い方々は、ご存じないだろう。井戸から水を汲み上げる道具のこと。ロープの先に付けた木造りの桶を滑車で引き揚げ、水を汲み上げる仕組みで、空になった、いわゆる釣瓶はストーンと井戸に落ちる。その様を秋の陽に例えたものだ。


釣瓶_convert_20111016162427


 私は山梨市の片田舎に生まれ育ったものだから、子供の頃は、この釣瓶との生活だった。顔を洗うのも、家事一切の水は釣瓶を使って汲み上げる井戸水であった。時には釣瓶にスイカを括り付けて冷やして食べたりもした。降雨で堀の水が濁れば、風呂の水も釣瓶で汲み上げて井戸の水を使った。釣瓶は常に人々の生活の中心にあったのである。




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せっかち男

車


 「お父さん、そんなに急がなくてもいいじゃあない。まったく、せっかちなんだから・・・。車に乗ると人が変わるんですね」



 女房が運転する車の助手席で「もっと、さっさと走れ」とか「先にある信号のタイミングを考えながら走るんだよ」などと、つまらぬ世話を焼くものだから、女房は嫌がる。最後のセリフは「そんなことを言うのなら、あなたが運転してくださいよ」。


 夫婦喧嘩などと言う大げさなものではないが、そんなたわいもないことが原因で口喧嘩をするのである。喧嘩と言うより女房だけがカッカとして怒るのだ。


車



 車は私たちの日常で最も小さな生活空間。家庭の居間などと違って向き合っているのではなく、お互い前を見ている。そこで気づくのだが、喧嘩と言うのは、ある程度向き合わなければ成り立たない。しかも、その密室は動いているのだから、本当の喧嘩になったら大変。そのことをどちらも承知しているので、決してエスカレートはしないのである。


 

 「車に乗ると人が変わる…」。その裏側には「普段はのんびりしているくせに」がある。確かにそうだ。すきずきの道路をノロノロ走っている車を見ると、そんな、のんびり屋が、途端にせっかちになる。正しく言うと、せっかちになるのではなく、前後を考えて走らないと危ない。うちの女房にはそれが分からないらしい。




 大抵の人間がノロノロ運転にはイライラする。後続車両は、たまりかねて追い越しを。そこに「危険」の落とし穴が待っている。現にそんなケースを目撃したことがある。間接的とはいえ、事故の原因を作ったノロノロ車両は、そんな事故を横目に他人事のように走り去るのである。「私は関係ありません」と言うのだろう。


 車_convert_20111014071257


 甲府と山梨市を結ぶ道路(国道140号)のバイパスとして自動車専用道路が出来た。西関東道路と言う。片側一車線の道路だ。ほとんど直線。桃畑の間を盛り土した道路だから見通しもいい。交差点もなければ、人が飛び出す恐れもない。規制速度は60㌔。その道路を60㌔すれずれの速度できちっと走っている車がある。順法。当たり前だ。




 しかし、時は朝の通勤時間帯。気ぜわしい時。前には一台の車もない。後ろには帯のように数珠繋ぎの車が。そんなことはお構いなし。「私は法を順守しています」とばかり、後ろに車の列を従えて走るのだ。「当たり前じゃあないか」とおっしゃる方もおいでだろう。でも、この人に「臨機応変」と言う言葉はない。自分だけが正しければいい、そんな考えがあるのだろう。正直言って腹が立つ。



 「お父さん、それがせっかちと言うんですよ」


 「バカ言え、そんな自分本位が結果的に、人々のイライラをつのらせて、事故を誘発するんだよ。その責任は問われないがねえ・・・」




 若者たちの言葉に「KY」(空気読めない)と言うのがある。まさにKYだ。



 麻雀仲間にも一手一手腕組みまでして考える人が。囲碁や将棋ではあるまいに…。癖なのだが、理屈のないノロマが気になるのだ。答えは簡単。単なる決断力の欠如に過ぎない?。




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テレビのハチ追い

ハチ1


 懐かしい。子どもの頃を思い出した。友から鹿児島旅行の土産として頂いた美味しい焼酎を飲みながらテレビを見ていたら、蜂追いの名人が画面で大活躍していた。秋の花の蜜を吸う蜂の胴体に薄紙の目印を付ける名人。飛び立つ蜂を双眼鏡で追い、無線電話でリレーする仲間達。蜂の巣を見つけた名人達のグループは、薬剤をジェット噴射、蜂が催眠している間に土の中から巣を掘り出すのである。



 「今もやっているんだ」。その手法は私達と、と言うより、ここでは俺達と言った方がいいが、同じだ。ただ、違うのは双眼鏡もなければ、まして携帯無線も、ケイタイもなかった。最後の詰めともいえる、一斉に交戦して来る蜂の大群を抑止するスプレーだって同じだ。さらに、目印の薄い紙っ片を蜂の胴体に付ける知恵までは廻らず、に付けてそれを運ばせたのである。


ハチ★小  ハチ★極小   ハチ★極小  ハチ★極小  ハチ★極小  ハチ★極小  ハチ★極小


 この目印蜂追いの最大のポイントである。肝心の蜂を見失ったら、目的の巣に辿り着けないからだ。そこは今も昔も同じ。違うのは、携帯無線も携帯電話もなかったから蜂を追うのは独り。何人かの仲間をあちこちに配置しておくチームワークプレーの知恵が廻らなかったのである。これだけは携帯無線などの化学兵器が無かった時代でも出来たはず。後の祭りだ。空を飛ぶ蜂だけを見て走る。今だったらこんな危ない事は絶対出来ない。



 最後の詰めがまた違う。蜂の巣を取り出すということは、とりもなおさず、蜂の城をのっとるという事にほかならない。そこには最もえらい女王蜂を守る二重三重の警備兵や外敵を迎え撃つ特攻兵もいるのだ。昔は蜂よけの防護服やマスクなんかなかったから、この場面は緊張の瞬間だった。



ハチ★大



 警備兵や特攻部隊に気づかれないうちに催眠剤を穴の中に差し込むのである。その催眠剤も、化学薬品のスプレーなんかではなく、歯ブラシや学校で使う筆箱下敷きであった。勉強で使う筆箱や下敷きを燃やしてしまうのだから、その学業成績は何をかいわんや、言わずと知れたことである。



 テレビを見ていて、おやっと思ったのは蜂の呼び名だ。蜂の種類であるヘボ(ジバチ)とスズメバチが一緒である。画面に映っているのは明らかにスズメバチ。スズメバチは黒い横縞があって、肌は黄色く、ヘボより二まわりも三まわりも大きい。ヘボは形が小さいばかりか、肌は黒く、白の横縞があるのだ。



 ディレクターのご苦労がよく分かる。蜂追いの名人から細部にわたって取材をし、さまざまの角度から番組作りの検討を重ねたはずだ。しかし、わんぱく小僧を体験した人間との差は、歴然と現れるものだ。都会で生まれ、都会で育った人間がいかに、しっかり勉強し、取材したとしても、時として十分に理解しきっていないことはあって当たり前。



 体験に勝るものなし、と言う。その裏返しで、私達が少しばかりの知識で勝手なことを言っているとしたらゾッとする。人間、良いも悪いも多くの体験をするに越したことはない。ただ、人様に迷惑をかけないことだけは鉄則だ。



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金木犀

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 秋の香りと言ったら、この金木犀を置いてほかにないだろう。我が家の金木犀はさすがに、匂いの峠を越したが、ひと頃は、それは、それはいい香りを周囲に放った。いやが上にも匂って来るものだから、金木犀は我が家を訪れる方々の挨拶代わりの話題になった。




 「いい匂いですねえ。樹も見事ですね」



 玄関先で、しばらく匂い談義をするのである。確かに、いい匂いだ。人間が古今東西、知恵を絞り、工夫を重ねて作る香水だって、金木犀には叶うまい。どんな人間にも嫌みを感じさせない。甘い香りは自然ならではのもので、人工では作れないだろう。数ある植物の中でも、これほどの芳香を放つ植物はないだろう。




 我が家に限らず、この時季と言うより、ちょっと前、行く先々で、金木犀の芳香に出会った。それも田舎暮らしの≪特権≫かもしれない。車で走っていても、その芳香は飛び込んで来る。今では寒くなってダメだが、ちょっと前ではお天気の日には窓を開けて走った。匂いの先には大きな金木犀が。

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 この匂い、どのくらいの距離まで届くのだろうか。空気と、それを動かす風が媒体だから、それほど広範囲ではないはずだ。でもそこを通りかかる車や人は、芳香の恩恵にあずかるのである。不思議と心豊かな気分にさせてくれるのだ。




 我が家の植え込みには三本の金木犀がある。うち一本は数年前、親しい友が「いい品種が見つかった」と、言って持ってきてくれたもの。残る二本は古木。子供の頃からそこにある。恐らく80年、90年、もっと経っているものだろう。田舎家の大きな、高い屋根まで届きそうなほど大きい。それから放たれる芳香なので威力もある。




 金木犀をご存じない方もおいでだろう。色はその名の通り金色。一つ一つの花は米粒大で、それが枝のいたるところに。いっぱいに咲くのである。緑色の固い葉っぱの間に間に花を付ける。その数は、まさに無数だから、樹全体が芳香を放つように見えるのである。



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 繊細な匂いを放つ割に、金木犀は逞しい。放っておけば、どんどん大きくなってしまう。それが≪お荷物≫に感じることさえあるのだ。庭木の手入れを植木屋さんに任せていた時はいいが、自分で剪定をするようになった今、大き過ぎて手入れがままならないのだ。よほど大きな脚立でも用をなさない。高い梯子を使うとなると、その都度、仕掛けに手数がかかるし、第一、高い所に上るのが怖い。




 仕方ないから何本もある幹を根元から間引きするのである。ひと回りも二回りも小さくしたいのだ。でも高い所は植木屋さんに切り落としてもらうより方法はない。人間とは勝手なもので、花が散れば、無用の長物。厄介者にしてしまうのだ。隣にある大きな赤松は、松くい虫にやられて枯れた。何本もあった立派な松は全滅。これは根元から切り倒せばいい。チェーンソーを買ってきて、自分でやる。



庭3


 すでに刈り込みを済ませたサツキやつつじの植え込みを除いて、ぼつぼつと剪定を始める時期を迎えた。素人が見よう見まねで、それも時間はお構いなしにやるのだ。




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秋桜

コスモス2



 春爛漫の象徴が桜なら、秋の花の象徴コスモス(秋桜)だろう。コスモスは春の桜と同じで、花そのものは決して派手でも、見ごたえのあるものではない。一つ一つの花を見た場合である。例えば、薔薇やチューリップのように一つ一つが個性を持って訴えかける花とは、いささか異なるのだ。それでいて、全体感では人々を魅了し、圧倒するのである。




 これに対して桜とちょっと時季をずらして、ひっそりと咲きながら、それでいて存在感があるのが、知る人ぞ知るサクラソウ(桜草)。春を告げる桜と秋を告げる秋桜の間で、それほど目立つことなく咲く花である。桜や秋桜のように一本の木や茎にたくさんの花を付けるわけではないので、見る人を圧倒する迫力はないが、それでいて何か人の心を引き付けるのがサクラソウだ。


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 サクラ、コスモス、サクラソウ。キーワードは「桜」。日本人は、なぜか桜が大好き。春にも秋にも、その間にもその「桜」を愛でる。そればかりではない。学校の校章にも使えば、学生服のボタンにも。「同期の桜」は「桜にいかり」だ。牛肉とはちょっと格下になるのを補うためか、馬肉を「桜肉」と言う。




 時代劇に出て来る遊び人の象徴の刺青と言えば、これまた桜。諸肌脱いで「えい、えい、てめえら、この桜吹雪を…」と、お白州で言い逃れをする悪者を相手に大見得を切る遠山の金さん。刺青は見事な桜だ。「風さそふ 花よりもなお・・・」と辞世の句を読んで切腹する浅野匠守のバックを彩るのも桜。ご存じ「忠臣蔵」の欠かせない一場面である。


遠山の金さん



 そこへいくと「タトゥー」と呼んでいる外国人は、ポパイであったり、碇であったり・・・。こだわりはない。もっとも最近、お隣の長野・八ヶ岳山麓の別荘地で発見されたニューハーフの遺体の二の腕には人魚の刺青が。若者たちの刺青に対する感覚も様変わりしているのだろう。≪美人≫ニューハーフの殺人遺体と人魚の刺青。いかにも週刊誌が喜びそうなスチュエーションだ。



コスモス



 我が家の畑の片隅で咲き誇っていたコスモスは、さすがに峠を越し、バトンタッチするように山茶花が。去年の種が落ちて自生したコスモスと違って、山茶花は垣根代わりに植えたもの。もう35年以上経つ。大量の苗を買い込んで来て垣根づくりをしたおふくろも逝った。

 「さざんか さざんか 咲いたころ たきびだ たきびだ・・・♪」と「焚火のうた」で歌われる山茶花は、なんとなくもの寂しい花だ。晩秋と言うより、寒い冬の到来を告げる花のせいだろうか。元気だった頃のおふくろと重ね合わせてしまうためか、もの寂しさが増幅するのだ。山茶花は赤ばかりでなく、白もある。おふくろが描いた我が家の垣根は、その赤と白が交互に植えられている。


山茶花2


 この山茶花、薔薇やチューリップと違って一つ一つが個性を持っているわけでも、桜のように散り際が良かったり、秋桜のように爽やかさを醸し出す花でもない。不思議な花だ。




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人権作文

 応募総数4,500点超。甲府地方法務局と山梨県人権擁護委員連合会が山梨県下の中学生を対象に募集した「人権作文」だ。正確に言えば全国中学生人兼作文コンテスト山梨県大会の応募作品である。今年で38回を数える。


鉛筆  

 この大会は全国でも稀にみる参加率を誇る。山梨県の96中学校すべてが参加しているのが特徴。もちろん、全校児童が加わっているわけではないのだが、学校現場での人権教育の熱意を示すバロメーターと言ってもいい。




 作品の審査は学校、地域、ブロック、それに中央と4つの関門が。学校はそれぞれの先生方、地域とブロックの審査は、それぞれの地域の人権擁護委員が担当。そこで絞られた31点の優秀作品が中央審査にかかるのだ。




 約4,500点の中の31点。いくつもの審査を経て最後まで残った作品だけにいずれ劣らぬ作品ばかり。前にも触れた高校ユネスコの弁論による主張大会と同じように、まさに甲乙つけがたいものだった。




 ここでの審査員は甲府地方法務局長や山梨県人権擁護委員連合会の役員など主催者側の代表と、県教育委員会や新聞社など後援者の代表。ここでは最優秀賞にあたる甲府地方法務局長賞や山梨県人権擁護委員連合会長賞など各賞を決めていく。5段階での評価方式である。最高賞作品は全国大会へ。




 作文は400字詰めの原稿用紙5枚以内がルール。命の尊さを訴える生徒もいれば、障害者への思いやり、児童虐待、地域とのつながり・・・。小学校や中学校の中で絶えない「いじめ」の実態やそれへの対処を訴える生徒も。中には中学生とは思えないようなLGBTに言及した作品もあった。
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 どの作品もフィクションではなく十代半ばの中学生たちの体験に基づくものだから説得力もあり、生々しい。人が生まれながらに保障されている「人権」を真正面から考え、綴っていた。




 明るく、楽しくなくてはならない筈の学校生活。もちろんそんなに多くはないのだろうが、どこかで起きている「いじめ」。作文から見る「いじめ」の実態には、ある共通点がある。どうやら「仲間外れ」に追い込んで陰湿にいじめるパターンのようで、被害者は耐えられない気持ちで学校での日々を送る。「キモイ」、「ウザイ」という「いじめ用語」もまた共通だ。
学校
 そんないじめを「みんなが悪いと思っている」。でも「いじめを受けている子に加勢して自分がいじめられたら…」。そんな子供たちの素朴な心理が「いじめを止められないでいる」。作品の中で「傍観者でいるのもいじめの加害者。私たちは勇気を出さなければいけない」と訴える子も。




 ユネスコの主張大会で見せた高校生の弁論、「人権」をテーマにした中学生の作文。どうしてどうして。「今時の若いモン」は様々な現実と向き合いながらも、しっかりと考えている。そんな子供たちの肩を先生や周りの人たちがちょっと押してやったら、どんどん伸びていくに違いない。




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野菜作りと女房

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 「お父さん、こんなに採れたわよ」



 女房が小ザルにいっぱい、ミョウガを採って帰って来た。うちの女房、毎朝、私より早く起きる。勝手口の前で朝飯を待つ3匹の野良猫に餌をやり、その足で畑を見回って来るのが日課になった。私が教えたわけでも、誰かに言われたわけでもない。


ミー子2


 私は女房を野良猫たちの≪餌やりおばさん≫と言っている。腹っ減らしの野良たちも心得たもので、女房の起きて来る時間をちゃんと知っていて、勝手口でニャンニャン言っているのだ。餌やりの後、畑を見回る女房は、つい先ごろまでの夏場だと、キューリやナス、トマト、それにインゲンや枝豆などの野菜を採って来る。今の時期だったらもう峠を越したが、ピーマンやシシトー、それに最盛期と言っていいミョウガやモロヘイヤ。


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モロヘイヤ


 夏野菜、それに秋冬、春野菜と我が家の野菜畑では、一年中では30種類近い野菜が採れる。正しく言えば、採れるのではなく作るのだ。職場をリタイア、ここ山梨市の実家に戻った時に植えた2本のリンゴ(ふじ)の木も今年は実を付けた。成木の富有柿や御所柿と並んであと一か月もすれば食べ頃を迎える。お蔭で我が家では一年を通して自家製野菜に事欠かない。都会での生活と違って土のある田舎暮らしのありがたさを実感したりもする。若い時には考えもしなかった。野菜や果物は、魚や肉と同じようにスーパーなどで買って食べるものと思い込んでいた女房も、まんざらでもなさそう。



 「お前ねえ、時には畑に出てお父さんに手伝ってもバチは当たらないぞ」


 ひと頃は、畑仕事に全く無関心だった女房に冗談とも本音ともつかない、こんなことをよく言ったものだ。人間とは面白いもの。最初は渋々、畑に出て来た女房も最近では、黙っていても手伝うようになった。顔つきまで違うのである。私のように百姓の倅に生まれたせいか、農業にあまり好感を持たない人間と違い、土との生活に縁のなかった女房にとっては、やってみると好奇心も手伝って新鮮に感ずるのかもしれない。





 そればかりではない。手伝い感覚とはいえ、自分が種蒔きや苗の植え付けに関わると、一つ一つの生育や収穫にも愛着が生まれるのだろう。長いホースを買い込んで来て、水やりも自分の仕事としてやっている。小ザルにミョウガをいっぱい採って帰ってくる女房の顔は誇らしげでもあった。ただ、野菜作りが雑草との戦いであることを心得ていないのか、草取りには全くの無頓着。黙っていれば草一本取ろうとしないのだ。

 
 「お前ねえ、草くらい抜けよ。小さいうちに取れば簡単なんだから・・・」


 「あら、そう・・・」


 種を蒔き、苗を植えさえすれば、大きくなって口に入る、と思っているのだ。「こいつ、バカじゃあねえのか」と思うことすらある。でもうれしそうに毎朝、畑を見回り、その時々の野菜を採って来ては、料理をしている姿を見ると、それ以上の言葉は出なくなるのだ。我が家の朝食はパン。ちょっとしたサラダやスープの素材にもなるが、主には昼食や夕餉の食卓に載る。スーパーや八百屋さんで買ったものと違い、自家製の野菜は一味違う。




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ミョウガの由来

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 今、我が家の畑ではミョウガが食べ頃。ミョウガはこの時季、その根元に出る芽?を食べるのだ。丸まると膨らんだ、その先っぽには白い花のようなものを付ける。それが摘み取りの目安。花?は食べないのだが、ミョウガはちょっとスナップするだけで簡単に摘み取ることが出来る。




 我が家のミョウガは、かつてのものと一新した。子供の頃から柿畑の隅などにあったのだが、除草剤で絶滅。サラリーマン稼業の間、畑の耕作を委ねていた方が除草の道連れにしてしまったのである。そんなことを知った友人が新しい苗をたくさん届けてくれた。ミョウガは地下茎で増える植物で、繁殖力は逞しい。畑の隅など数ヵ所に植えたミョウガは、いつの間にか増えた




 もちろん、私が料理するわけではないのだが、卵とじでもよし、漬物でもよし。生のまま千切りやみじん切りにし、鰹節で食べるのもよし。酒のつまみにはうってつけだ。同じ漬物でも塩、醤油、それに酢漬けでもいい。食べ方はいくらでもある。酒の肴にとどまらず、ご飯のお供にも十分。ダイエット食でもあるのだ。


みょうが
味の素レシピより


 私は、このミョウガが大好き。



 「お父さん、ミョウガをたくさん食べると物忘れが激しくなり、バカになるんですってよ」


 「バカいえ。そんなこと迷信だよ。それはねえ・・・」


 昔、何かの本で読んだ、うろ覚えのことを知ったかぶりして女房に話してやった。記憶が間違っていなければ、こうだ。



 誰でも知っている、この言い伝え、そもそもは仏教関係の故事に由来する。「法華経直談抄」という書物の中に出て来る釈迦の弟子・槃特は、自分の名前すら忘れるほどの≪物忘れの名人≫。だから槃特は、いつも名札を付けていた。その槃特が死に、亡骸が葬られた墓からニョキニョキと草が生えてきた。槃特が生前、いつも名札を付けていたことから、人々はいつしか、この草を「茗荷」と言うようになったという。



 物忘れが激しい槃特こそがミョウガの元祖というわけ。


 「お母さんねえ、オレやお前の物忘れなんか、槃特とやらにに比べりゃあ赤子みたいなもんさ。『最近、物忘れが激しくなった』などと心配することはないよ。でもなあ、お前の場合、死んだらミョウガがいっぱい生えて来るかもなあ~」


 「なに、バカ言ってるのよ」


 うちのかみさん、どうやら冗談は通じないらしい。


 「茗荷」という文字から連想するのは「茗荷谷」。東京やその周辺にお住まいの方ならみんなご存じ。地下鉄(東京メトロ)丸ノ内線の駅名である。プロ野球ファンならよく知る東京ドームがある後楽園の近くの駅だ。茗荷谷駅の付近は江戸の昔、茗荷畑が多かったことから、その名がついたのだそうだ。今は行政上の「茗荷谷」という地名はない。ここでの話には関係ないのだが、この駅は地下鉄線の中でも特異で、ホームの一部は地上。改札口が地上にある。




 ミョウガをめぐる言い伝えが、もしも本当だったら東京都文京区にある茗荷谷駅界隈の人たちは、その昔、槃特のような物忘れの名人ばかりだったということになる。




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犬と猫

猫3


 つまらぬことというか、汚い話を度々、お目にかけて恐縮だが、犬と猫は用足しのお行儀が全く違う。猫が自分できちっと始末するのに対して、犬は所構わず、である。私の偏見かもしれない。我が家に住みついた3匹の野良猫や人間の散歩に同行する飼い犬を見る限りのことだ。




 野良でさえ猫は土に穴を掘って用を足し、済んだ後は土を被せて後始末をする。これに対して犬は所構わずだから散歩道にも時として犬の用足しの痕跡が。あっちこっちで苦情さえ出るようになった。今は野良犬などいない。みんな飼い犬である。散歩者の中には糞を処理するための手ごてや袋など小道具を持ち歩く人も。植込みや畑を挟んでいるが、我が家の前を走る道は古道なので幅員が狭く、車が通れない。お蔭で犬を連れての格好の散歩道なのだ。




 散歩の主はいずれも農家の人たち。この辺りはブドウやサクランボを基軸とした果樹地帯。かつては農家の人たちの散歩など、全く考えられなかったが、急速に進んだ機械化がそうさせた。畑への行き帰りは軽トラック。畑の中での仕事は機械依存なので、体を使う部分はめっきり減った。第一、歩かなくなった。

葡萄


 その副産物が犬、と言ったら犬に気の毒だが、ひと頃に比べ犬を飼う農家が目立つようになった。この辺りでは、昔は、犬の飼育は≪番犬≫としてであった。しかし防犯体制の整備や、しっかりした施錠など住宅構造の変化は番犬を用無しにし、犬は単なる愛玩動物に。ペットだ。人間とは勝手なもの。ここでは自分だけではつい億劫になる散歩のアイテムなのである。「散歩をしてやらなければ犬が可愛そう」。それは方便。本当は、とかく意思の弱い人間が散歩をするための足かせにしているのだ。


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 「お父さん、うちでも犬を飼おうか。そして二人で歩こうよ。そうしないと足腰がどんどん弱くなっちまうわよ。みんな朝に晩によく歩いているじゃない」



 犬と散歩する人たちに触発されるのか、女房がこんなことを言う。


 「う~ん・・・」



 そのたびに私はどっちともつかない返事をするのである。私が犬の飼育に二の足を踏むのには、ちょっとした理由(わけ)がある。幼い頃、四人の兄弟が可愛がっていた愛犬(番犬)が老衰で死亡、幼心にショックを受けたこと。もう一つはお尋ねした知人の隣の家で見た、放置された犬の糞だ。庭のような空地は糞だらけ。それに抜け毛。庭と言わず、玄関先と言わず、抜け毛がいっぱい。恐らく家の中も…。




 もちろん、これは特異なケースに決まっている。でも、なぜか犬の飼育話とオーバーラップしてしまうのだ。これも特異なケースだろうが、世の中には犬屋敷だの猫屋敷と言われて世間のひんしゅくを買って平然としている人たちがいる。一方で、犬や猫に留まらず、愛玩動物としながら、飽きれば、次の日はポイ。人間、勝手すぎないか。ニシキヘビだのワニだの通常では考えられない≪ペット≫がいとも簡単に捨てられる現実があるのだ。人間、いつかバチが当たる。動物をなめたらいかんぞね…。




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今時の若者

 大人たちはよく言う。「今時の若いモンは」と。私だってそう思ったことはいっぱいある。でも、とんでもない。「今時の若いモン」は、少なくとも私たちの子供の頃より、ずっとしっかりしているし、今を憂い、将来を、未来を真剣に考えていると思った。

高校生

 そんなことを痛烈に実感させられたのは高校生の弁論大会であり、中学生の作文コンクールだった。



 高校生の弁論大会。大会は山梨県の高校ユネスコが毎年開いている主張大会だ。ここでは同県下の高校ユネスコ部の代表が一堂に会して持ち時間6分で、それぞれの主張を競うのである。国際理解、相互理解など幅広い見地から意見を述べるのだが、もちろん内容は様々。




 発展途上国における飢餓に言及し、飽食の日本に置き換えて平気で食べ残しをする現実に「もったいない運動」を提唱する者もいた。そうかと思えば国連の現実に疑問を呈する生徒も。米国、ロシア、英国、仏国、中国など世界大戦の戦勝国でリードされている現実への疑問だ。


地球  


 食料自給率40%の日本。それを分かっていながら毎日大量に捨てられている食べ物。民主主義を標榜しながら≪強者支配≫の国連。高校生たちは国際感覚で疑問を呈し、改善を訴えた。もちろんテーマは食料や国連ばかりではない。様々な角度から論じた。




 コンクールだから採点しなければならない。6人の審査員はみんな頭を抱えた。甲乙つけがたいからだ。表彰式で講評役を仰せつかった私はこんなことを言わせていただいた。




 「高校生の皆さんが自らや自分たちが住む社会をしっかりと見つめ、新たなステップを見出そうとしている。その姿勢に感銘した。主張や提言が自らの体験や勉強に立脚しているから説得力もある・・・」




 驚いたのは若者たちの国際感覚だ。たまたまかもしれないが、帰国子女がいたり、夏休みなどを利用した外国での短期留学・ホームステイを経験している生徒が目立った。若者たちはそこで「何か」を感じ取って帰って来ている。


飛行機


 すぐ自分と重ね合わせてしまうオジサンの悪い癖だが、私たちの高校生の頃は外国に行くことなど夢のまた夢。全く遠い存在だったから、むしろ考えにも及ばなかった。「トリスを飲んでハワイに行こう」。こんなキャッチコピーのコマーシャルがテレビやラジオで、ぼつぼつ流れ始めようとしている時代だった。ハワイが外国、いわばあこがれの地だったのである。新婚旅行はまだ国内一辺倒。因みに山梨に住む私たち夫婦の新婚旅行は南紀白浜だった。




 ユネスコの弁論による主張が高校生なら、こちらは「人権」をテーマにした作文。甲府地方法務局と山梨県人権擁護委員連合会が毎年、同県下の中学生を対象に実施しているもので、ここでも若者たちは、大人たちをハッと思わせるような論陣を張った。それがまた自らの体験に基づいたものであったことは言うまでもない。 




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おきてがみ
プロフィール

やまびこ

Author:やまびこ
 悠々自適とは行きませんが、職場を離れた後は農業見習いで頑張っています。傍ら、人権擁護委員の活動やロータリー、ユネスコの活動などボランティアも。農業は見習いとはいえ、なす、キュウリ、トマト、ジャガイモ、何でもOK。見よう見まね、植木の剪定も。でも高い所が怖くなりました。
 ブログは身近に見たもの、感じたものをエッセイ風に綴っています。

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