ブヨ
猛暑日。熱帯夜。やっぱり暑い。家の中の温度計は31度。温度計といっても、どなたかの結婚式の引き出物に頂いたデジタル時計。大きく算用数字で刻まれる時間の下に温度と湿度が表示されるのだ。電波時計というヤツで、同じシステムの壁時計やテレビ、ラジオの時報と1分、1秒違わない。例え狂ったとしても、どこかで必ず合わせてくれるのである。電波でコントロールしているのだそうだが、その理屈がアナログ人間に分かるはずがない。そんな時計に付いているのだから温度計だって正確だろう。
山梨は県丸ごと内陸地帯に位置しているので、蒸し暑さでは天下一品。特に四方を山に囲まれた甲府盆地は天然の蒸し風呂みたいなものだ。太平洋側であれ、日本海側であれ、海に面した所にお住まいの方々が羨ましい。娘が小さいころは私と女房の両方の親も連れて伊豆の海に行った。避暑などとかっこいいものではなかったが、娘を海で遊ばせてやりたい気持ちと暑さ逃れであったことは間違いない。伊東であったり、下田や土肥の海岸であったりした。そんな親爺達もみんな逝ってしまった。
誰もがお気付きだろうが、暑い、暑いと言っているうちに、ジワジワと日が短くなっている。ひと頃は7時半頃まで明るかったものが今では6時半といえばボツボツ薄暗くなる。日中は、しゃら暑いので夕方から畑に出て野良仕事の真似をするのだが、日が短くなるのが何かもったいないような気がするのだ。まだちょっと早いが、「秋の日はつるべ落とし」という。すぐそんな時期になる。
日が長くなったり、短くなるのは季節の変化の証。それはそれで仕方がない。問題は野良にしかいないブヨや夕方から活動し始める藪っ蚊の存在だ。この時期、まるで我が世の春、とばかり畑の草むらや植え込みの中で暗躍。なにしろ小さいので姿、形はほとんど分かり難いから始末が悪い。襟元であれ、顔であれ容赦なく喰いついてくる。足首や手首は地下足袋や手袋で防備できるからいいが、顔や襟元は防ぎようがない。
人間の体温が彼らを寄せ付けるのか、それとも汗の臭いなのか。仕方なく丸いケース入りの蚊取り線香を腰にぶら下げて作業をするのである。犬の散歩で通りかかった近所のおばさんは「私なんか、うっかりしていたら、この始末ですよ」と、自分の襟元を指差した。ブヨに食われた痕が何箇所も真っ赤に腫れ上がっていた。75歳も過ぎると色気もなくなるのか襟元をさらけ出すようにして見せてくれた。
この蚊やブヨ。篤農家の果樹園や野菜畑にはほとんどいない。果樹園はひっきりなしに消毒するし、野菜畑は丹念に草取りをしているからだ。怠け者の畑が彼らの楽園。畑や植え込みをほったらかしにしていると、隅々から必ずつけ込んで来る蔦と同じだ。蔦というのは葦と同じ不思議な植物で、人間が手を加えないことが分かると、ここぞと、ばかり、はびこって来るのである。都会の方々はご存知ないかもしれないが、ブヨは蚊よりも始末が悪い。食われた痕はかさぶたのようになり、周りは真っ赤に腫れ上がるのだ。子供の頃はびっくりもしなかったが、免疫が薄れたせいか、今では百姓の倅も真っ赤に腫れ上がる。
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