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消防団は今…

 消防3


 「お父さん、明日は8日。消防団の方がおいでになる日よ」


 女房は七草粥を食べながらの朝餉の箸を止めて、そんなことを言つた。女房が言う「消防団が来る」とは地区での寄付金集め。七日正月が終わって、社会全ての日常が再起動する8日、この地域では、消防団の代表が各戸を回って寄付金を仰ぐのが恒例となっているのだ。

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 「ご苦労様ですね。ことしも一年、よろしくお願いしますね」。法被姿の若い消防団員と新年のあいさつを交わした後、ご祝儀にも似た、のし袋を手渡すのである。消防団の運営には経費が伴うことは当然。むろん、その経費は当該市町村が賄うのだが、すべという訳ではない。一朝有事の後の慰労や夜警巡回の後のお茶など、目に見えない経費も少なくない。住民が戸別に賄う「区費」からの助成もあるが、寄付金は、それとは別個で、あくまで任意の「思いやり予算」である。


 東京など都市部では、とっくに自治体消防が定着して、「消防団」という言葉すら住民から忘れられたに違いない。死語になった、と言った方がいいかも。もちろん、山梨だって自治体消防はネットワークされている。しかし、県土の75%が山林原野という地域性から、全てを自治体消防がカバー、フォロ―することは、時間的にも物理的に不可能だ。


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 距離は当然のことながら出動時間に比例する。火事という緊急性から時間的な距離は万一の場合の致命傷であることは言を待たない。そんな場合、分署を置いて対処する手立てがないでもないが、その場合の経費が追い付かない。勢い、地域の法被組、つまり消防団に頼らざるを得ないのだ。


 その消防団が、また悩みの種。地方に行けば行くほど、人口の減少が進み、若い人たち、つまり消防団員のなり手が少なくなるのである。若者の中には消防団への入団を嫌う人だっている。兎に角、地域の消防団は人数的にもやせ細る一方。そんなこととは関係なく、火事や、最近では異常気象も手伝って集中豪雨、それに伴う水害など自然災害の危険度も増しているのである。

 消防1

 山梨市の郊外、むしろ田舎と言った方がいい、私たちの地域も例外ではない。そこで、もう10年ぐらい前だろうか、消防団をバックアップするための「消防協力隊」が出来た。私も、その初代本部長(隊長)を務めたが、一度は消防団を退役した年齢の人達が仕切り直しで、消防団を応援しよう、というもので、地域に住まいする75歳までの男性で組織した。

 主力部隊ではないが常時、臨戦態勢を整えておかなければならないのは当然。毎月交代で消防車の操作や、消火訓練も欠かさない。立派な法被も作った。ただ、この消防協力隊は原則、出動は地域内の有事に限る。




 一方、消防団は、その地域に限らず、近隣の有事にも出動する。自治体消防にとって、≪法被組≫との関係は大きなポイント。自らの手で全てをフォロー出来ない以上、そことのスクラムは欠かせない。ただでも広範囲をカバーしなければならない地方の自治体消防は消防団なくして成り立たないのだ。しかし、その消防団は隊員の減少に歯止めがかからない。政治が忘れがちな?地方には、そんな深刻な現実がある。事は一朝有事の時、場合いによって生命や財産に関わることなのだ。




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法被と消防協力隊

 法被。さて、皆さん方は、この二文字の言葉から一体何を連想されるでしょうか。祭り商店街の大売出し各種のイベントさまざまな啓発活動消防団交通安全協会、防犯協会。伝統的な木遣り保存会の見事なあの節回しを思い浮かべる人もいるだろう。なんとなく古風なイメージを持った着物のような気もするが、今も、あっちこっちで生きている。もちろん、その性格によって、全体の色やデザインは異なる。でも、形そのものは少しも代わっていないのである。


法被1   法被2

 我が家にも一着の法被がある。作ったばかりの真新しい法被だ。胸から両側の縦に「岩手分団」「紺屋区消防協力隊」の文字が黒地に白で染め抜かれている。背中には県名「山梨」をあしらった、おなじみの消防団の法被である。違うのは一方の胸から下に染め抜かれた「・・・消防協力隊」の文字だけだ。



 「消防協力隊」はその名の通り消防団への協力部隊である。この4月に発足した。その背景や理由はおおよそお分かりになるだろう。私達の地区の消防団も、ずっと昔から若い人たちの手によって引き継がれてきた。ひとたび火事が起きれば消火の先頭に立ち、地域防災の旗手としての役割を果たしてきた。


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 しかし、その消防団がやせ細る一方。この地域ばかりではなく、世に言う少子化現象を反映、それを担う若者達が減少しているからだ。それに、農業後継者であるはずの若者達の農業離れが拍車をかけた。



 「このままでは万一の場合、地域を守ることは出来ない」



 誰からともなく、そんな声が上がった。そこで登場したのがこの消防協力隊である。いわゆる自主防災組織。消防団OBはもちろん、日中、地元にいることが可能な75歳までの人たち35人余りで編成した。発足当時、区長代理でもあったことから私が隊長役でもある本部長を仰せつかったこともある。

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 各組長らで本部を構成する一方、機械、水利、交通、筒口ホースの各係りを設けた。本部は部隊の司令塔、機械係はポンプ車、筒口ホース係は最先端での消火作業を担当する。交通係は万一の場合の交通整理だ。水利の確保も含めて日ごろの備えが必要。このため、消防ポンプ車の整備を担当する班も作った。全体を6つの班に分け、ポンプ車の点検整備はもちろん、班ごとに月代わりでポンプ操法の訓練もしている。全員がポンプ車を操れなければ万一の場合、役に立たない。備えあれば憂い無しである。

消防2


 消防ポンプ車の操法訓練は午後6時半からと決めている。夏の時期ならともかく、冬の時期だと真っ暗だ。仕事を終えた時間ということもあるが、実戦に備えるためにはむしろ夜の方がいい。もちろん、指導役は消防団。みんな真剣だ。



 自治体消防はどの地域にもある。しかし、それだけに任せているわけにもいくまい。都市とか農村を問わず、それなりの自主防災組織は欠かせない。特に、農村の場合、消防団への依存度は大きい。その消防団が少子化のあおりを食っている今、全国どの地域でも人事ではないはずである。ただ、実戦の法被は着ないにこしたことはない。





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消防団の≪留守≫

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 「地区の皆様にお知らせします。今日、明日の二日間、消防団が旅行のため地区を離れます。火事を起こさないよう特段の注意をお願いいたします」
防災無線から、こんなアナウンスが流れた。この時季の≪恒例≫と言ってもいい放送である。この地域の防災や安全を担う消防団は、多くが果樹農業の若き担い手。ブドウの収穫にメドを付けた消防団は、この時期、一泊二日の慰安旅行をするのだ。万一の場合に対処しなければならない消防団だって≪人の子≫。年に一度の息抜きのひと時である。





 消防団は、言わずと知れた民間部隊。いわゆる有志による任意の組織である。もちろん、これとは別に自治体が受け持つ「自治体消防」がある。消防団が法被組とすれば、こちらはれっきとした制服組。厳密に言えば、火事現場における「指揮権」など、この二つは根本的に異なる。




 県下に先駆けて自治体消防が出来た甲府地区の場合、当初は、両者が火事現場で、しばしばトラブルを起こした。法被組の消防団は地元部隊がゆえに現場への到着が早い。当然、放水を始める。一歩遅れた自治体消防は放水の指揮権を主張して法被組とぶつかるのだ。消火栓の整備の遅れもあって放水の調整は消火の効率化の観点から無視できないことも確か。


防災訓練2


 そんな過渡期を経ながらも自治体消防の確立によって都市部においては制服組に消火・消防業務が委ねられ、法被組はどんどん姿を消したのである。しかし、地方は今でもちょっと違う。人口や世帯の密度は大きく違い、そればかりでなく山付きの集落をも抱えるので、自治体消防は物理的にも財政的にも«小回り»が利かないのだ。勢い、地域で編成された消防団、いわゆる法被組に業務を委ねざるを得ない。委ねるというより«頼る»と言った方がいいかも知れない。




 この地方の場合、山梨、甲州の両市が一部事務組合方式で広域の自治体消防を持ち、地域の消防団と力を合わせながら、任務にあたっている。広域消防本部は地域の消防団、つまり«法被組»には頭が上がらない。裏を返せば、法被組の協力なくして広域的な地域の万一の場合に対処できないのである。行政と民間の協調体制は、どうにかうまくいっている。


防災訓練4


 しかし、肝心の消防団はどの地域も押しなべて、団員の数を減らし、地域によっては存続の危機にさらされている所も少なくない。ただでも減少する人口形態に加えて、若者たちの都市部への流出。本音で言えば、消防団という従来型の組織活動に拒否反応を示す若者だっていないでもない。


防災訓練


 そこで、この地区が考え出したのが「消防協力隊」。地域にいる人たちが75歳までみんなで務める仕組みだ。«区行政»の先頭に立たなければならない区長の下で区長代理(副区長)を本部長とした組織を作った。多くが日中も地元にいる農業従事者である。参謀は各地区の組長。「自分たちの地域は自らで守ろう」。協力隊の法被も作った。約40人のオジサンたちは6つの班に分かれて毎月一度、現役消防団の指導で消防車の操法や放水訓練も欠かさない。それが一朝有事の場合の対処策なのだ。




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拍子木の今昔

 拍子木。大相撲や歌舞伎、寄席のファンなら知っている。あのなんともいえない音と響き。ちょっと考えれば、あってもなくてもいいようなものだが、これがなくては始めも終わりもしまらない。お客さんはこの拍子木の音を聞き、これからの土俵や舞台の出し物に期待を抱き、また名残を惜しむ。たかが拍子木、されど拍子木なのだ。 
拍子木
 
 特殊な世界にだけに生き残るこの拍子木。実は、かつては身近にもあった。お若い方々や都市部にお住まいの方々は、ご存知ないかもしれないが、火の用心を呼び掛ける、欠くことのできない道具だったのである。回覧板のように拍子木が各戸をリレーし、毎夜、日替わり当番で、この拍子木を叩きながら地域を巡回するのだ。人々は夜警と呼んだ。




 火災が増えるのは、今も昔も冬の時期。寒い。これといった防寒着がない昔は、ドテラと呼ばれた綿入れを着込んでは拍子木と共に「火の用心」を呼び掛けながら巡回するのである。一晩に2~3回。お父さんに連れられて一緒に廻る子供もいた。時代劇に出て来る人っ子ひとりいない夜道を頬かむり姿で歩くあの火の番を想像すればいい。凍てつく夜空に犬の遠吠えも。夜警が火事のみならず、防犯にも役立った。


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 その拍子木が田舎から消えて久しい。変わって登場したのが法被。持ち回りの夜警を消防団に委ねたのである。消防ポンプも「ガッチャンポンプ」と言われた手動式から高性能の自動の車式に。自主訓練も含めて団員の教育も徹底するようになった。お正月恒例の新年出初め式が中学校のグラウンドで開かれた。県議、市議、区長ら各界代表、消防OBなどを招いて、日頃の訓練ぶりを披露するのである。


 出初めの式は礼式や表彰が中心。礼式は、実戦のポンプ操法と共に欠くことの出来ない規律だ。約2時間、その技を見事に披露した。「俺達にもあんな時代があったなあ~」。観覧席で、かつて消防団長を務めたOBは、後輩達の演技を懐かしそうに見守っていた。その一方で、みんなが共通して頭を痛めるのが消防団員の際立った減少だ。




 この地域でも少子化と若者達の都市部への流出が顕著。地域防災の先頭に立つはずの消防団にも確実にシワ寄せし、その戦力への危惧さえ出てきた。このため区は、自主防災組織としての消防協力隊を発足させた。75歳定年制とし、中高年も含めて主に日中地元にいることが多い人達を中心とした編成である。万一の場合、消防団をサポートするための実戦部隊である。6つの班に分けて毎月、ポンプ操法の消防訓練も欠かさない。




 もちろん、自治体の広域消防もある。「自治体消防に任せればいい」。こんな割り切った声もないではない。しかし、人口密度が少なく、その拠点から比較的遠隔地にある山間地の場合、初期消火などに地元の力は欠かせないのだ。


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 「自治体消防は何をしているのだ」。その声は都市部から地方の田舎へとジワジワと波及している。拍子木が身の回りから消え、特殊なものになった今、自分たちの地域を守る基本的な意識も変わりつつある。親と一緒に拍子木を叩きながら夜警に歩いた子供たちがいつの間にか70歳代になった。拍子木が消え、次には法被もやがて消えていくのか・・。




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郷土史と郷土愛

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  なぜか、山梨では無尽会が盛ん。その昔、堺の商人たちの間で盛んだったと言われる「頼母子講」の延長線上とも言えるが、今では、その性格を異にし、人々の«社交の場»。お金を用立て合う頼母子講の性格はなくなった。同級生や親しい仲間が集う場で、毎月、日日や曜日を決めて行うのが一般的。「○○日会」とか「〇曜会」、または学校の卒業年次を名前にするなど、名付け方は様々だ。


酒


私も高校時代の同級生(18日会)やユネスコの仲間たち(5日会)など4つの無尽会に入っている。その一つに旧村地域の人たちで集う無尽会がある。「20日会」と言って毎月20日、地区内にある中華料理屋さんで開く。メンバーは20人弱。年齢は60から90歳近い人まで幅広い。お酒を酌み交わしながら、交流を図るのである。果樹栽培の話もあれば、健康管理の話、政治や経済に及ぶことも。話題は尽きない。ある時、90歳近い長老の一人が、こんなことを言った。この人は若い頃、教職に身を置いた方だ。






「今の学校は、子供たちに自分たちが住む地域のこと、つまり歴史や生い立ちを教えないんです。これでは将来にわたっても郷土愛など育まれるはずがない」



この地域にも少子化はむろん、過疎化の波がじわじわと忍び寄っている。人々に郷土愛が失われたら過疎化への道にますます拍車がかかると言うのだ。


「地域には地域の歴史があり、それが築き上げて来た誇りにも似たものがある。算数や国語など教科書だけが教材ではない。«語り部»がいなくなってからでは遅い」とも。現に武田信玄は知っていても、この地域を治めた岩手氏のことは知らない。




確かにそうだ。私のように70歳も半ばを過ぎようとしている人間ですら、自らが住む地域の歴史を知らないことがいっぱい。高校時代の同級生で、何事にも勉強熱心な男がいて、ふとしたことから思わぬことを教わることが多い。私のパソコンの師匠でもあるこの男、興味を持てば郷土の歴史であろうが、山野草であろうが何でも食いつくように追究するのだ。




人間、歳を取ると、だんだん«出不精»になるのが常。ところが疑問を持てば現地に足を運ぶ。山であろうが、川であろうが、時には外国までも飛んでゆく。先ごろは雲海の写真をメールで送って来た。丘と言っても言い過ぎでない450m級の山から撮ったもので、御坂山塊や富士山はむろん、塩の山(甲州市)や荒神山(山梨市)まで雲海の上に浮かんでいるのだ。


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富士山や南アルプス、八ケ岳など標高の高い山では、確かに雲海を目にし、そこから登る朝日の荘厳さに感動。雲海は高い山から見るものとさえ思っていた。ところが送られてきた写真は、我が家と目と鼻の小高い丘にあるフルーツパーク富士屋ホテルからのもの。「へえ~」と思った。近くを笛吹川(一級河川)が流れている気象の条件もあるだろう。


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生き字引ともいえる先輩や物事を知る人たちに身近な自然や郷土の歴史を教わっておいて損はない。でも現実は…。こんなことをパソコンで書いている私の横では、4歳半ばになる孫娘がママのiパットで、アニメやゲームに夢中。郷土の歴史や自然などを知っておきたいなどと思っているのは、爺が思い込んだ時代遅れの郷愁に過ぎないのか。






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おきてがみ
プロフィール

やまびこ

Author:やまびこ
 職場を離れた後は«農業もどき»で頑張っています。傍ら、人権擁護委員やロータリー、ユネスコなどの活動も。農業は«もどき»とはいえ、なす、キュウリ、トマト、ジャガイモ、何でもOK。見よう見まね、植木の剪定もします。でも高い所が怖くなりました。
 ブログは、身近に見たもの、感じたものをエッセイ風に綴っています。

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