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隣の奥さんの愛犬

裏の道1


 もちろん、日の出や日没時間に違いがある夏と冬とでは異なるが、毎日、我が家の前の小道を犬を連れて散歩する隣の奥さんがこの一両日、通らない。この小道は古(いにしえ)の≪幹線道路≫と言われているが、車時代になった今、その機能を散歩道に変えた。コンクリート舗装はされてはいるものの、2m足らずのこの≪幹線道路≫が今の時代に受け入れられるはずがない。我が家の庭、そしてこうしてパソコンを叩いている私の机の窓越しからでも2~30mぐらいの所にある道だ。




 隣の奥さんは人一倍の犬好き。朝が遅く、日暮れが早いこの時期だと、朝は7時半前後、夕方は4時半前後には必ずといっていいほど大きな犬を連れて通るのである。連れて、と言うより連れられてと言った方がいいが、この奥さんは私がいる時には遠くから目を合わせるように軽く頭を下げて通り過ぎる。連れている犬は老衰で死んでしまったという前の犬に変わって見つけてきた雑種犬。なんとなくだが、前の犬と違って双方の呼吸が合わないのか、奥さんが犬に引っ張られているようにも見えた。


犬1


 その奥さんが昨日も今日も通らない。なんとなく気になった。ご主人は私と年齢が一回り以上も違う90歳近い歳だから、もう80歳も半ばを過ぎているだろう。



 「奥さん、この一両日、姿が見えないですね。風邪でも引いたんですか」



 畑で遅まきながらサトイモを掘っていた私が顔を上げたらニコニコしながらこちらにやって来た隣のご主人に私はこう言った。そのご主人は笑顔を崩さないまま



 「いやあ、風邪じゃあないんですよ。実は、犬に引っ張られて転んだ弾みで肋骨にひびが入ってしまってねえ・・・」



 「えっ、それで、入院しているんですか。どんな具合です?」



 「いやいや、入院なんちゅうもんじゃあないんですが、家に居ると女はどうしてもこまごま動いてしまうので三日、四日、病院に預かってもらうことにしたんですよ」



 「いずれにしても心配だ。わたしゃあ組長だからみんなで見舞いに行かんといけんね」


 「いやいや、ホント。すぐ帰って来るんですよ」



 それから三日後、その奥さんがニコニコしながらやって来て「心配かけちゃいましたねえ」と言いながら事故の顛末を話してくれた。それによるとこうだ。




 根っからの犬好きのこの奥さんは20年近くも飼っていた犬が老衰で死んだ後、犬が諦め切れず、知り合いから「拾い犬」という、やはり雑種犬をもらってきた。ところが、警戒心がひときわ強い犬で、なかなか慣れてはくれなかった。それでも、必ず慣れてくれる、と信じながら毎朝、毎夕の散歩も欠かさなかった。その大事に仕方は人並みではない。

犬2



 ところが、ある朝の散歩中、この犬が急に走り出し、ロープで繋がれていた奥さんは犬に引っ張られて転倒、胸を打った。体重が2~30㌔はある大きな犬だから、女性の力ではどうにもならなかったのだろう。でも犬好きのこの奥さん、今日もその犬と散歩を続けている。「奥さんの気持ち、きっとこの犬に伝わりますよ」と、言ってあげた。





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招かれざる客・猪

「今日、畑に行ったら豪いヤツに行き会っちまったよ」
 「何に行き会ったでえ」
  猪だよ。猪。でっけえヤツだった。俺の顔を見たら逃げて行っちまったけどねえ」

猪1  えぇ汗


 回覧板を持って来ながら、ひとっ話していった近所の親爺さんとの茶飲み話である。たわいもなくと言うか、事も無げに、この親爺さんは言うが、実際は農家とって猪の出没頭痛の種なのだ。




 周りのぶどう園はだんだん葉っぱを落とし、春先から秋の収穫期まで忙しい日々を送っていた果樹農家もこの時期はちょっと一服する時期だ。肥料掛けを終えて、剪定作業に入るまではしばらく間がある。野や山の木々も紅葉を深める一方で、早いものは葉っぱを落とし始める。猪だって餌を求めなければならないので、山ばかりにいるわけにもいかない。山路や里に向かって降りてくるのだ。


猪2


 猪に出っくわしたと言う親父さんの家は、岩手山から延びる三角州のような大きな丘陵のすぐ下にある。私の家からは2~300mの距離だ。親爺さんが猪に出っくわしたのはそこから100m足らずの所。この一帯は、かつては、麦やモロコシ、サツマイモ、さらには養蚕用の桑畑だった。




 ところが米麦や養蚕が衰退して、果樹へと転換、今はサクランボの産地化が急ピッチで進んでいる。サクランボは主にハウス栽培で、小高い山路は一面と言っていいほどハウスの白いビニールで覆われている。もちろんその間に間に野菜畑や柿畑が点在する。

猪親子


 親爺さんによれば、猪に出っくわすのは今回ばかりではなく、たびたびだ。秩父山塊からこの地域の山にかけて猪が急激に増えたのはこの10年ぐらいの間だそうで、その理由を聞いて「へえー」と、驚いた。猪の天敵は狐。猪と言ってもあのでっかいヤツではなく、子どもの「うりぼう」。狐はこの小さいうりぼうを隙きあらばと狙い、食べてしまうから猪の数は自然に抑えられた。

うりぼう  

 ところが、最近、この一帯の狐が急激に減っているのだそうだ。減っている原因は定かではないが、狐の間に病気が流行?したためだという。親爺さんはこうも言う。


キツネ



 「最近、野良に行っても狐にほとんどと言っていいほど出会わなくなった。時々出会うのは野垂れ死にしている狐ばかりだよ。そのはっきりした原因は分からないが、何らかの病気であることは間違いない。伝染病かも知れない。とにかく猪はだんだん増えていて、畑ばかりでなく、家の軒先まで来たことがある」


house.jpg   イノシシ    きつね   狐


 猪は作物を荒らすばかりでなく、畑のあっちこっちをほじくり返す。ミミズなどを食べるためだという。こんなことを書くと「やまびこさんは、そんな山の中に住んでいるの?」とお思いの方がおいででしょうが、どこにでもあるのどかな農村地帯である。

 最近では猪は農家に留まらず、畜産農家にまで影響を与えているのだ。豚へのコレラ媒介である。山梨でも何頭もの豚が豚コレラ感染の疑いで、殺処分を余儀なくされた。猪とコレラの因果関係は、現在のところ定かではない。

 もう何年も前になるが、甲府市の中心街に猪が出没、デパートに飛び込んで大騒ぎしたことがある。こちらは猟師の追い方が悪く、山とは逆の里に追い出してしまったのだそうだ。




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屋根の上の猫

猫130918


 「あれ、うちの猫じゃない。あんな所を歩いているわ」



 畑仕事を手伝ってくれていた女房がびっくりしたように言った。「うちの猫」と言うが、正確に言うと、我が家に住み着いた「野良」だ。お隣の家の屋根の上を我がもの顔で悠々と歩いているのである。




 お隣の家といっても山梨市の片田舎のこと。都市部と違って軒を並べているわけではない。そこそこ広い畑を挟んでいる。ナス、キュウリ、トマト。私たち夫婦は夏野菜の植え付けをしていた。夏大根の種蒔きも。ジャガイモはもう一回目の土寄せをする段階になっている。夏野菜ばかりでなく、サトイモやトウノイモ、サツマイモなど秋野菜の植え付けもした。サツマイモは「植え付け」とは言わず、「挿す」という。種芋から出た茎を切り取って盛り土に挿しておけば秋には立派なイモを付けてくれるのである。


サツマイモ3


 まだ5月の半ばと言うのに今日はやけに暑い。二人がまるで申し合わせたように額の汗を拭いながら顔を上げた時、目線の先にいたのが我が家の野良。たまたまその近くで働いていた隣の親爺さんはこちらの方を向き、ニコニコしながらぺこりと頭を下げた。「よくお稼ぎになりますね」と言いながら我が家の畑に歩み寄って来た。




 この親爺さん。私とひと回り違う午年の生まれだから今年88歳になる。自ら「腰痛の持病持ち」と言いながらも立派な桃や葡萄を作る。私たちの目線を追って自分の家の屋根の上を見た親爺さんは、優しそうに顔をほころばせてニッコリ笑った。


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 「うちの猫、いつもお宅で遊んでいるんですか? いたずらしていたら叱って下さいよ」


 「いやいや、いたずらなんかしませんよ。でも猫はいいですよねえ。人間と違って、何の垣根もなく自由奔放に何処でも歩けるんですから。可愛いもんですね」


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 私と同じように、どちらかといえば、この親爺さん、あまり動物好きには見えないが、奥さんは人一倍の動物好き。大きな犬を飼っていて、いつもこの犬と話しをしているのだ。その会話が面白い。「おはよう。あら、今朝は元気がないじゃない。夕べよく眠れなかったの」「これ、美味しいんだよ。早く食べな」「うちのお父さん、腰が痛いんだって・・・」「今日は雨が降るかもしれないね」。その会話はまるで人間同士のよう。奥さんは85歳前後か。




 朝と夕方、決まった時間に散歩もする。この時も大きな声で犬と話をしながら歩くのだ。その様はいかにも微笑ましい。昨年、それまで飼っていた甲斐犬が老衰で死んだ。奥さんが憔悴したことは言うまでもない。その後、どこからか貰ってきたのが今の柴犬だ。「なかなか、なついてくれなかった」。気性が乱暴なのか散歩中に暴れ、ロープで引っ張りまわされて転び、怪我までさせられたことも。そんな犬も優しい、犬好きの奥さんには勝てないのだろう。いつしか従順になった。


裏道


 そんなお隣さんだから我が家の野良も遊びに行き易いのかもしれない。猫の行動範囲は意外と広い。現に300m、400m離れたお宅の飼い猫が我が家にもちょいちょい遊びに来る。用事でやって来た飼い主が我が家でハチ合わせ。「おまえ、こんな所まで来ているのか・・」。




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野良猫の掟

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 何年間ぐらいだっただろうか。野良猫と付き合ったことがある。付き合ったと言うより、見て来たと言った方が正しいかもしれない。現役のサラリーマン時代だった。甲府の飯田町という所に住んでいた時分の事だが、縁の下にいつの間にか1匹の野良猫が住み着いた。その野良は、これもまたいつの間にか子どもを生み、大きくするのである。なぜかいつも3匹ずつ。


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 母親は人間どもに細心の注意を払いながら子どもを育てるのだ。我が子をしっかりと見守る一方で、ある程度大きくなると餌の奪い合いまでやって見せる。世の中で何がかわいいと言って子猫ほど可愛いものはないと思えるほどだ。小さな身体に似合わないほどクリクリした大きな目。それも3匹一緒。母親でなくても目の中に入れても痛くないほど可愛い。そんな子どもを母親は決して自分より前に出そうとしない。その警戒心は剃刀のようだ。いつも研ぎ澄まされている。

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 一方、餌の奪い合い。そこそこ子どもの体が大きくなった頃を見計らって演じて見せるのだ。親子でである。ノロマをしていたら生きていけないことを、身をもって教えているのだろう。奪い合いは壮絶。教える、などと言った類ではない。まさに親子ではなく、そこにあるのは動物対動物。弱肉強食そのもの。迫真極まるのだ。その親の気持ちが分からないでもないから、いじらしくもある。




 そんな母親の教育を受けて子ども達の目つきは、いつしか母親のそれと同じになるから不思議。子どもの教育の良し悪しは人間様も同じかも。もっと不思議なのは、ひとり立ち出来た一匹を残して、みんな何処かにいってしまうことだ。それが野良猫の掟なのか。代々同じことを繰り返すのである。いったい何処に行くのだろう。母親はまた流浪の旅に出、成長した子ども達は、母親と同じ≪人生≫を歩むのか。それとも外に出されたのは子ども(子孫)を生めない男だからなのか。なぜか残るのはメスなのだ。





 こんな野良とは対照的に今、我が家に住み着いた3匹は、全くおおらか。警戒心が全くないと言ったらウソになるが、どこか人懐っこい。目つきもいい。人を信じることも知っている。特に三度のメシをくれる、うちのかみさんには、文句なしに従順。正直言って、あまり猫が好きではない私にだって媚を売るように近づいてくる。野良仕事をしている傍で、また植木の手入れをしている時も近くにいて仕事を見守っているのだ。可愛くもなる。どこかの飼い猫であったことは間違いない。

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 「おまえ、どこから来たんだ?飼い主が心配しているぞ。早く帰ってやれよ。それとも捨てられたのか。それなら、うちにいていいぞ。遠慮はいらん」



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 人間の言葉など分かるはずもない猫に話しかけている自分がおかしくなった。一方で、かみさんの方にばかりなつく野良へのひがみが潜在的にあるのか、こんなことも。


 「おまえ達に餌をくれるのは≪餌やりオバサン」。本当の主はオレなんだぞ」



 その野良、何の意味か分からないが、大きなあくびをした。「こんな時に、あくびするな」。

 
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吾輩は猫

 時には仲間喧嘩もしないでもないが、結構、友達とも仲良くする。暑さや寒さも平チャラ。精神力も逞しい。その上、社交的。どこへでも、どこの家にでも気軽に行き、おやつやご飯も戴く。屈託などまるでない。愛嬌だってある。だから可愛がられるのだろう。

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 これは人間様ではない。その吾輩は、猫である。昨年、一匹の野良猫が住み着いたのをきっかけに、我が家には野良や近所の飼い猫が集まるようになった。畑仕事が暇な時、こうしてパソコンを叩いている窓越しには、いつも決まっていくつもの猫がやって来る。そのうちの何匹かが我が家の軒先に住み着くようになった。押しかけ女房ならぬ、押しかけニャンニャンだ。最初の野良猫が≪道筋≫をつけたことは言うまでもない。いつか知らぬ間に3匹に。みんな我が家の家族を気取っている。その手助けをしたのは、紛れもなくうちのかみさん。いつの間にか「キャッツフード」と書かれた大きな袋を買い込んで来た。ホームセンターからだろう。昔の猫なら喜んで食べたはずの、めざしの頭や食べ残しの魚には見向きもしない。今時の猫は贅沢極まる。「猫メシ」と言って女房はバカにするが、私は今でも時々、ご飯に味噌汁をかけて食べる。うまい。だが、これにもそっぽを向くのだ。




 猫の種類など、からきし分からないから、正確に表現することが出来ないが、先陣を切ったのは虎模様のメス。「ミーコ」と名付けてやった。二匹目は白で、顔は茶色と黒。ペルシャ系か。三つ目は真っ黒。「クロ」と呼んでいる。白いヤツは「シロ」「シロ」と呼ぶようになった。共通しているのは、みんなそれなりに「品」がある。贔屓目なんかではない。野良猫にはとても見えない。第一、愛嬌がある。野良猫特有の鋭い目つきではない。


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 「お父さんねえ、これ、みんな飼い猫だったと思うわよ。野良猫だったら、こんなに人間になつかないわよ。かわいそうに。捨てられたのかしらねえ・・・」


 「そうだよなあ。ここが住みいいということかもしれんな。まあ、何かの縁だ」




 かみさんとそんな話をした。前にも書いたことがあるが、私はかつて野良猫と≪付き合った≫経験がある。職場を退いて現在の山梨市の実家に戻る前のサラリーマン時代、甲府の自宅に住み着いた野良猫だ。縁の下で3匹ぐらいずつ子どもを生んでは育て、世代交代していく。つまり、やがては内一匹だけを残して親も子も、どこかに消えてしまうのである。この間に人間への警戒心だけは徹底して教え込んでいるのだ。餌をくれる女房ですら本当には信じ切っていない。そのことはあらゆる仕草から見て取れる。


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 その頃は仕事で忙しく、野良猫なんかにかまっていられなかったし、ましてや観察している暇もなかったのだが、親は幼い頃から子供に人間への警戒心を叩き込んでいたことだけは確かだ。まさに「雀百まで踊り忘れず」。そんな教えを受けた野良猫は大人になっても絶対に人を信じないのだ。そうでもしなければ、危ない人間社会の片隅で生きていくことなんか出来っこないと思い込んでいるのだろう。野良猫の宿命かもしれない。




 所詮は野良。子どもを作るお相手は、同じ野良同士でもいいし、通りがかりのご近所の飼い猫でもいい。相手の男は全くの無責任で、いつか知らぬ間に、どこかに行ってしまう。




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おきてがみ
プロフィール

やまびこ

Author:やまびこ
 悠々自適とは行きませんが、職場を離れた後は農業見習いで頑張っています。傍ら、人権擁護委員の活動やロータリー、ユネスコの活動などボランティアも。農業は見習いとはいえ、なす、キュウリ、トマト、ジャガイモ、何でもOK。見よう見まね、植木の剪定も。でも高い所が怖くなりました。
 ブログは身近に見たもの、感じたものをエッセイ風に綴っています。

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