風船の思いやり

風船


 大空を見上げる顔。顔。顔。165人の子供たちが放った風船は、五月の青空に静かに吸い込まれていった。赤、青、黄色。白いものもあれば橙色も。一瞬、大空に五色の花が咲いた。主役の子供たちばかりでなく周りの大人たちも思わず拍手。その拍手の波が風船を追いかけた。心を洗われるような瞬間だった。山梨市の郊外にある後屋敷小学校のグラウンド。風船には花の種と同校の3年生から6年生の子供たちが一人一人心を込めてしたためた思い思いのメッセージが。



 「花を育てることによって子供たちに思いやりの心を育んで欲しい」




 そんな思いを込めた山梨県人権擁護委員連合会「花を贈る運動」の一環行事。この日は市内14人の人権擁護委員が揃いの法被姿で駆けつけ、グラウンドに集まった子供たちにポットの花の苗を贈った後、花の種をつけた風船を子供たちの手で大空に飛ばした。


風船2


 昨日までの雨が空を大掃除してくれたのか、雲一つない五月晴れ。その上、無風状態のせいか、色とりどりの風船はまっすぐに大空へ。しかし上空の気流は西から東へ流れてゆく。だから風船は確実に山梨の東、東京や神奈川、千葉、埼玉、茨城方面に飛んでゆくのだ。昨年もやはり、この時期に同市内の山梨小学校で同じ行事をした。この時は3時間と経たないうちに神奈川や千葉、埼玉の子供達から学校や人権擁護委員連合会の事務局がある甲府地方法務局に「風船に託された花の種を拾った」というメールが届いた。


人権の花


 中には成田空港のすぐ手前にある佐倉市の小学生からも。メールには可愛いらしい、こんなメッセージが付いていた。



 「学校から帰ったら僕の家の庭に〇〇君からの花の種が割れた風船と一緒に落ちていました。花壇に蒔いて大事に育てます」



 風船に託した花の種は200キロ近く離れた、見知らぬ子供たちとの交流まで育んだ。〇〇君はもちろん、学校の先生達や主催者の人権擁護委員、法務局のオジサンたちも大喜び。どちらかといえば鈍感な私でさえほのぼのとした気分になったものだ。そんな一端をこのブログで紹介したら、やはり同じような気持ちを抱かれたのだろう。全国の何人かから心温まるコメントを戴いた。


人権  

 その中に「でも、風船の残骸は自然を壊したり、邪魔者にならないのかしら・・・」といったご意見も。「なるほど・・・」と思ったものだが、実は今の風船、自然に優しく出来ているのだそうだ。かつての風船のようにゴム製ではなく、時間とともに土にかえる材質になっているのだという。人間ばかりでなく動物など自然の万物に優しくなければいけないことは確かだ。そんな思いは私のような日本人より欧米人の方がはるかに優れている、と思ったことがある。丁度一年前の昨年春、女房と二人して大西洋―パナマ―太平洋クルーズをした時、大型客船のデッキに固定された灰皿の脇で見た注意メッセージ。「you can smoke here but please don’t threw anything over hoard care get complaints from the fish」。あの大きな海にいる小さな魚までいたわっている。




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掃き溜めの鶴

鶴


  掃き溜めに鶴。考えようによったらあまりいい表現ではないかも知れないが、そんなことを実感したことがある。数年前のことだ。小学校時代の同級会を開いた。卒業して55年が経つのだが、途中、1回か2回、開いているので、40数年ぶりだった。山梨市の片田舎の小学校で、同級生は40人足らず。戦中生まれだったせいもあって疎開組もいた。




 「懐かしい幼友達に会いたい。同級会を開いて・・・」




 そんな声がどこからともなく上がった。その段取りをするのは地元にいる者の役目だった。当然のことながら仲間たちは全国に散っていた。それならまだいい。全体の1割を超す5人が鬼籍に入っていた。恩師のほとんども。消息がわからない仲間もいた。時の流れの重大さを実感せざるを得なかった。



 同級会の舞台は甲府市内のホテル。連絡の取れたほとんどの仲間が集まった。そこまではいい。「お前は誰だっけ?」「あなたは?・・・」。顔と名前が一致しない。歳月は幼馴染の顔、形まで変えていた。しばらくの間、あっちこっちで、そんなやり取りが。でも、そこは幼馴染。ちょっとした会話で50数年前の悪ガキ時代にタイムスリップするのだ。


学校


 そんな同級会の座敷に一足遅れでやって来た女性がいた。たまたま空いていた真ん中の席に。




 「あいつ誰だったかなあ~」。「俺も分からねえよ」。そんな仲間達のささやくような会話を小耳に挟みながら、その女性は席に着いた。




 「遅れてしまって済みません。電車に一本乗り遅れてしまって・・・」




 ちょっと照れくさそうな仕草を見せながらもニコニコと。会を始めたばかりだったが、その一人が来たことだけで会場が、なぜかパッと明るくなった。




 「私は旧姓〇〇です。長野に嫁いで、〇〇と言います」


華


 その言動というか、振る舞いには、どこか≪華≫があった。品格もある。「本当にあいつか?」。子供の頃から口の悪い一人が、それでも気を遣って、ささやくように言った。恐らくみんながそう思っただろう。子供の頃と今の落差があまりにも大きかったからだ。




 その女性は子供の頃、人並み以上の引っ込み思案で、すべてに陰に隠れたような存在だった。そう言っては失礼だが、美人でもなければ、可愛くもなかった。暗い。みんなにそんな印象が残るほどマイナーな印象が強かったのだ。言いにくいから、説明はこの辺にしておくが・・・。


 


 ところがどうだ。一転して、その座敷にをもたらしてくれているのである。そこは幼馴染の同級生。子供時代のことも、ざっくばらんに話題に。この女性、そのことをニコニコしながらあっけらか~ん、と認め、それを、また話題にする度量まで備えていた。50数年の人生は人をガラリと変えていた。歳月は人を変える。みんなそうだが、この人の場合はひときわ際立っていた。人は子供の頃の悪しき思い出を引きずりがち。でも違う。今をどう生きるかだろう。この女性は身体でそのことをみんなに教えた。


華2

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ハゲ頭とネクタリン桃

日差し


 「やっぱりがないと直射日光をまともに受けたり、ちょっとした外からの作用で傷だって付き易い。暑さ寒さもさることながら、毛があれば日焼けもしない。あってみればなんでもないのですが、無いとやっぱり不自由。毛は大事なんですねえ」


 隣の親爺は自らのハゲ頭に手をやり、ジャガイモの土寄せ中の私に真面目顔で言った。




 この親爺さんが言う「毛」とは髪の毛の「毛」ではない。の毛の話だ。その桃とはネクタリンという品種。早生種の白鳳や、その後を追いかけて出て来る白桃に代表される桃の改良品種である。漢字にすれば「油桃」というのだそうだ。「油桃」の字がイメージするように表面がツルツルしていて、いわゆる桃のような毛がない。形こそ違うがスモモのような肌をしている。桃の毛は病害虫から表皮が弱い実を守る役割も果たしているのだ。


ネクタリン
ネクタリン


 林檎にしろ、梨や柿、スモモ、サクランボにしろ、果実の表面に毛があるのは桃くらいのもの。葡萄だってない。あえて言えばキウイフルーツくらいのものだろう。ただ、このキウイフルーツは間違っても皮ごと食べることはないので、桃とは、ちょっと性格が違う。当たり前のように食べているが、桃は数ある果物の中でも特殊。丸かじりする場合、この毛を洗い落とさなければ食べられない。しかしネクタリンは全く毛がないので丸かじりだって出来る。親爺さんは、このネクタリン種の成木を何本も切ってしまった。しっかりした実をつけるに前にバッサリとやった。未練を残さないためだろう。

キウイ   桃


 「もったいないですねえ。それにしても、よく思い切ったことをしましたね



 「そうです。私にすれば断腸の思いです。消費者の人気はあと一歩。残念ながら売りにくい桃です。それに生産者がまばらなので、流通への出荷もしにくいのです。食べてはうまいのですがねえ・・・。独特の酸味が消費者に敬遠されるのかもしれません。なかなかポピュラーになり得ないのです」




 このネクタリン表皮に毛がないことと酸味が特徴。この酸味は、私なんかにはえもいわれぬ味だが、どうやら酸味は大衆的には受け入れられないようだ。「甲州種」と呼ばれる葡萄がそうだ。山梨県人はどんな葡萄にせよ、種ごと飲み込む習慣があるのでいいが、都市型の消費者の多くは種を出す。酸味は核、つまり種の周りにあるので、勢い「これ、酸っぱい」ということになる。かつて甲州葡萄の代表ブランドの地位にあった「甲州種」は生食用の座を追われ、ワイン原料に成り下がった。大抵の葡萄はジベレリンという薬品処理で種が抜ける。しかし甲州種は果肉が柔らかいためか、それが不可能なのだ。


甲州種
甲州種


 この親爺さんは若い頃は山梨県の果樹試験場で果樹の品種改良に取り組んだ一級の技術者だった。定年後、自らの桃畑にネクタリンを大々的に植えたのも、それと無関係ではない。木の作り方も一般の桃とは違い、葡萄のそれと同じような仕立て方を工夫した。「ネクタリンをもっと多くの消費者に食べてもらおう」。そんな夢があったのだろう。でも負けた。それを後押ししてしまったのは、紛れもなく歳だった。




 「もう80歳です。後継者もいないしねえ・・・」




 髪の毛のほとんど失くした親爺さんはやっぱり寂しそうだった。




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蕗(フキ)の筋

蕗


 蕗(フキ)筋を剥かなければダメなんだよ」



 「お父さんねえ、この時期の蕗は皮だって柔らかいから大丈夫なんですよ」


 でも、ちょっと歯に引っかかる。夕餉の食卓に載った蕗の煮つけをつまみに晩酌をしながらの、かみさんとのたわいもない会話である。女房が言う通り、この時期の蕗はエンドウなどと同じように柔らかいので、それほど筋を気にしなくてもいいのかもしれない。


蕗2


 日川高校時代の同級生で、今こうして叩いているパソコンの≪師匠≫でもある「萩さん」こと「萩原」という友から戴いた蕗の苗。我が家の畑の片隅で、どんどんその勢力を広げている。




 春の香りの代表格。そんな顔をしていたフキノトウは、いつの間にか大きくなり、ありふれたに。真っ直ぐに伸びる茎に丸い葉をつける。一本の茎が緑なら葉っぱも緑。よく考えてみたら、こんな植物も珍しい。一本の茎に葉っぱが一つ。極めてシンプル。枝もなければ、ただ一つ頭のてっぺんに傘のような葉をつけるだけで、花もつけない。


竹


 無知な私にはよく分からないが、蕗は地下茎で繁殖する植物なのだろう。その繁殖の仕方、繁殖するおパワーは、あのとよく似ている。ただ、竹は花をつける。こう言うと「そんな馬鹿な。竹の花なんか見たことないよ」とおっしゃる方が多いだろうが、竹は本当に花をつけるのである。もちろん、その周期は定かではないが、おおよそ60年に一度と言う。私達の田舎では花が咲いたらその竹の寿命は終わり、と言われ、事実、花が咲いた後、竹が枯れるのを見たことがある。今はないが、我が家の竹薮でのことだ。


竹2



 竹の繁殖力はすごい。木質のその竹の根と比較したら負けるかもしれないが、蕗の根の繁殖力もそれは逞しい。いつの間にか地下茎をぐんぐんと伸ばす。「萩さん」から貰って植えた一坪ぐらいの面積の蕗は、4年たった今、ちょっとした畑のような存在になった。連作を嫌うホウレン草やジャガイモと違って≪定住の畑≫としての体をなしているのだ。




 まだ春とは名ばかり。そんな時期、しかも、時には淡雪の間から顔を出すフキノトウ。福寿草と並んで春の到来を告げる使者。人間はそれを食べ、自然界がもたらしてくれる春の英気を身にも心にも取り込み、快く味わう。酒飲みの私なんか天ぷらや酢味噌和えとして大好物だ。フキノトウは寒い、寒いと言っていた春先だけの束の間の命。その後に柔らかい若い蕗が。煮つけがうまいのはこの時期だ。夏から秋。茎が硬くなったら、皮というか、筋を取り、あのキャラブキに。葉だって食べる。蕗の砂糖菓子だってある。


蕗3


 外観は何の変哲もない。お世辞にもうまそうには見えないし、ましてや食べてみようとも思わない植物だが、これほど最初から最後まで人間の味覚を堪能させるものはないかもしれない。私の親しい友人の奥さんで、この蕗を加工するキャラブキ作りの名人がいる。酒のつまみとして私が大好物であることを知っていて、毎年届けてくれるのだが、実にうまい。女房が作ってくれるフキノトウの酢味噌和えや天ぷらは、どちらかと言えば単純。だがキャラブキの味は奥が深い。蕗の料理と食べ方は季節によって変わるのである。




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本音と建前

恩賜林


 「私だったらこの広大な山林原野を今、国・政府が困っている基地に貸しますね。もちろん、条件付。基地の誘致で、過疎化する麓の地域を再生するきっかけを作るんです。沖縄の普天間基地移設問題で今、政治が揺れています。反対運動が前面に出ていますが、そこには必ず地元住民の本音と建前があるはず。世論として表に出ているのは建前と、もっともらしいマスコミや文化人といわれる人達の声。本音は基地がなくなっては困る人たちも多いし、徳之島(鹿児島)のように本当は基地を持って来たい人達もいるんですよ・・・」


恩賜林2

 
 ここは山梨県と埼玉県の県境にまたがる奥秩父山塊の山梨県側の一角。こんな話をしたのはこの一帯の山林を保護する「金峰前山恩賜県有財産保護組合」の元組合長。年恰好は80歳前後。同組合はこの一帯の山麓にある山梨市と甲府市の一部地域で構成されている、れっきとした特別地方自治体である。先頃、今年度第一回の組合議会が招集され、この日は組合執行部と議会合同の現地視察が行なわれたのだ。



恩賜林4

 
 視察に加わったのは今年度、新たに選出された議員と私のような監査委員など組合役員に任命された人達の、いわば新人研修。執行部と議会側、合わせて約20人が揃いの法被姿で参加。1,400haにおよぶ持ち山をいくつかのポイントから一日がかりで視察した。「私だったらこの山林原野を・・・・基地に貸しますね」と、本音とも冗談ともつかない口っぷりで話した元組合長は、この日の案内役。広大な山の隅々まで熟知しているようで、つづら折れの凸凹道を車で走り、その要所要所で歴史的な経緯も含めて説明した。




 通称「恩賜林組合」。都会にお住まいの方なら聞いたこともなければ、縁もゆかりもないだろうが、明治の時代、天皇から御下賜された県有地の保護団体。山の植林や下刈りなど、その保護、保全と管理をしているのである。山梨県は県土の約75%が山林原野。その多くが、この恩賜林、つまり県有地だから、その総面積は概ね見当がつくだろう。山梨県には64の恩賜林組合があって、それぞれのテリトリーで保護・管理の活動をしているのだ。


恩賜林3


 その中で最も大きなのが富士吉田市ほか2カ村(山中湖村、忍野村)恩賜林組合。ここは特異な組合で、管理区域内に自衛隊の「北富士演習場」を抱えている。日米の地位協定に基づき米軍の演習にも使わせている。いわゆる基地を抱えているのである。今は平静を保っているものの、かつては基地を巡る賛否が県政を揺るがし、「県政の分水嶺」とも言われた。その一方では莫大なお金が恩賜林組合や地元市村に落ちているのだ。事実、「防音」の名で小中学校の校舎は整備され、さまざまの公共施設や周辺道路も立派になった。




 基地がない世の中の方がいいに決まっている。しかし、国や地域が抱える現実を無視しているばかりにもいくまい。「私なら・・・」。恩賜林組合元組合長の冗談とも本音ともつかない言葉の裏には、いくばくかのリスクを背負っても最大公約数の「地方、地域の利益」を考えなければならない「現実」がある。「平和ボケ」したり、便利な生活を享受出来る都会にお住まいの方なら、この本音は分かるまい。どの道どこかに設けなければならない基地の誘致で、財政や雇用、関連ビジネスの創出を考えようとする本当の気持ちなのだ。




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女房の存在

がぞりんスタンド2  


 「お父さん、私がいなくなったら、どうするんです? 何も出来ないんだから・・・」



 「お前は大丈夫。俺より長生きするさ。お前のお気楽、極楽ぶりじゃあ、あと50年、100年生きるよ」


 「失礼しちゃうわ。お父さんは(困れば)いつもそうなんだから・・・。自分のことぐらい自分でやってくれなきゃあ、困りますよ・・・」


 セルフのガソリンスタンドで、車の給油をしながらの、うちのかみさんとのやり取りである。車の運転もさることながら、ガソリンの給油も最近では、みんな女房任せ。実を言うと、車の運転はともかくとして、私にはセルフ給油の操作が分からないのだ。




 「まず車の給油口を開け、取り外したコックをここに置いたら、ここをタッチ。次にガソリンの種類を選定、給油作業に入る前にここにタッチして体の静電気を取り除くんです。給油が済んだら、ここを・・・」

ガソリンスタンド


 女房は馴れた手つきで、それをやって見せる。当たり前だが、セルフの給油機は、全てが指による機械操作だ。利用者の確定処理から始まって、料金請求のレシートを受け取るまで利用者が指示してやらなければ、給油が完了しない。


ガソリンスタンド3


 「へえ~い、いらっしゃい」


 車で通勤していた現役時代は、頻繁にガソリンスタンドに寄った。その頃はスタンドに車を横付けにしさえすれば、顔馴染みの店員さんが黙っていてもやってくれ、最後は「毎度あり・・・」。そればかりか、タバコの灰皿から窓ガラスの拭き掃除までサービスは≪満タン≫だった。




 もちろん、そんなガソリンスタンドがなくなったわけではない。でも、ただででも利幅が少ない、この業界は長引く経済不況と原油の高騰というダブルパンチにあえぎ、四苦八苦。閉鎖に追い込まれているスタンドだって珍しくない。生き残りを賭けた自衛策に懸命なのだ。「少しでも安く」。そんな消費者ニーズと人件費の削減などスタンド側の思惑がピタリと合ったのがセルフのスタンド。街にはこのタイプがどんどん増えている。徹底したサービスで勝負するか、それとも「安さ」で勝負するかの戦いといっていい。


ガソリンスタンド4


 普段からモノの値段には敏感な,特に主婦達は、はしっこい。普段はノロマな、うちのかみさん,いつの間にか銀行口座を設けて、セルフのスタンドでの給油に切り替えた。「全く何も出来ないんだから・・」「自分のことは自分で・・」。待てよ? うちのかみさん、亭主に向かっていつの間にか、子供にでも言うような口の聞き方をするようになった。




 考えてみたら、その時期は会社勤めをリタイアした頃からかもしれない。現役時代は少なくとも、そんなことはなかった。その金額が多いか、少ないかは別に、サラリーを運んでくれる≪打ち出の小槌≫だったからだろう。女とは現金なものだ。いくら年金生活に舵を切ったとはいえ「お前が今、こうしてメシを食っていられるのは誰のお陰だ」と開き直ってもみたくなる。でも、そんな女房がいるから我が家がもっているのかもしれない。




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永遠か終焉か

 式典


  「(私の胸像移築式に)公私ともお忙しいところ、ご出席いただき、ありがとうございます。感謝の気持ちを込めて、心ばかりの宴を用意させて戴きました。今日お招きしたのは極親しい、しかも限られた方々ばかり。ゆっくりご歓談いただければ幸いです。息子や孫達、私の家族が今日のお祝いと皆さんへの感謝の気持ちを込めて今朝ついたばかりの餅もあります。友人のハンターが自らの手で獲ったイノシシやクマ、シカの珍味もあります。私は小さいころから、うまいものは一人で食べるな、と教わりました・・・。存分に召し上がって頂き、この場を利用して交流の絆を確かめ合って頂ければ幸いです」


胸像


 会場を変えて経済界や政界など何人かの来賓の祝辞の後、宴の主催者である83歳になる老人は、会場を埋めた150人を超すお客さんを前に挨拶した。隣には和服姿の奥さんが。老人は以前、このブログでも紹介したことがある方。先頃、山梨県中小企業団体中央会の会長職を後進に譲り、野に退いた。18年間の山梨県トラック協会の会長を経て務めた同中央会の会長在職は12年。文字通り山梨県経済界の重鎮として君臨、その発展に尽力した。




 同中央会のトップへのステップはトラック協会での尽力と活躍の結果にほかならない。18年。その長きにわたる尽力は山梨県のトラック業界を不動のものにした。この人が退く時、あとを託された人達は、半ば当然のように協会の建物の前に顕彰のための胸像を建立した。12年の時を経てこの胸像が移設され、この日の宴となった。


胸像4


 「存命中に建てて頂いた胸像は、私がそれなりの始末をしなければいけないと思うのです。人間に来るべき時が来るように、どんな組織だって永遠とは限りません。環境の変化や時代の変化が、それへの評価を変える事だってあるかもしれません。私の胸像がずっとそこに居座っていいものかどうか・・・。あなたはどう思いますか?」


 今年の始め頃だっただろうか。この人は自らを納得させるかのように私にこんな問いかけをしたことがある。


 「私のような若輩者が恐れ多い判断めいたことは言えませんよ。それでも言わせていただくとしたら、その胸像は協会組織が総意として為さしめた、あなたへの顕彰と業界のこれからの更なる発展への決意の証。謙虚なものの考え方は理解できますが・・・」


胸像2


 結局、移築先は一年前、建立した同家の墓所の脇だった。今を預かるトラック協会の賛同を得たことは言うまでもない。胸像の移設場所となった墓所は甲府盆地を一望に見渡せる湯村山の中腹に。広い敷地を囲んだ玉垣の内側の石塔には、奥様とご一緒に「大居士」がつく戒名が赤字で刻まれていた。80の歳を過ぎたのを機に一つ一つ公職を退き、自らを整理する一方で、これからをゆったり見詰めようとする、この人の心の内が見て取れる。胸像移築セレモニーの案内状作りの過程では、こんな問い掛けも。


 「私は移設先の表現を≪終焉の地≫と考えてみたのですが、あなたの意見を聞かせてよ」


 「≪終焉の地≫ではなく≪永遠の地≫の方がふさわしいのではないでしょうか」

この人はいつも人に意見を求める。そこに成功者の本髄を見た。


胸像3


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巨大マーケットと起業家

上海


  インドなどと共に今や巨大なマーケットとして世界的な注目を集める中国。統計上でも13億人。実際にはその数をはるかに上回ると言われ、しかも急激な発展途上にある国だから、世界の起業家が注目しないはずがない。車の業界にしろ、ITや通信、新幹線や道路建設などあらゆる業界の企業が、そのマーケットへの進出を虎視眈々と狙っているのだ。




 グローバルという言葉が日常的に使われ、地球はどんどん小さくなっている。技術や人がそこを行き交い、それがまた地球を狭くしている。東南アジアはもちろんアフリカなどの発展途上国に対してはODAという名のカンフル剤も打たれ、経済活動の裏側では政治の後押しも。もちろん発展途上であったり、マーケットが巨大であるだけで、そこでの企業活動が順風満帆というわけではない。中国に進出した日本の現地法人の社長さんはこんなことを話してくれた。


 


 「一口に言って国民性の違う国での企業活動は難しい。日本ではほとんどあり得ない約束事の反古だって珍しくないし、金の支払いもよくない。今ではびっくりもしないが、賄賂による取引は当たり前。人を騙す事だって平気だ。そんな中国を日本の新聞は伝えない」




 この企業は日本では通信ケーブル業界の大手。もっとも今は光ファイバーだから、IT業界と言った方がいいのかもしれない。6年前、上海郊外の工業団地に進出した。出資比率は日本側が51%、中国側か49%。日本側リードの合弁企業である。


ケーブル



 現在の社長は二代目。初代社長が私達夫婦に今回の中国行きのきっかけを作り、案内役を買って出てくれた方だ。技術畑の秀才で、東京本社勤務はもちろん、イランの現地法人にも出向したこともある国際派のベテラン。中国では立地場所の選定から諸々の現地交渉を経て会社を立ち上げ、立派に軌道に乗せた。会社は上海の中心部から高速道路で50分足らずの所にある。工業団地といっても日本のそれとは大違い。スケールはとてつもなく大きい。国土はいっぱいあるのだ。人もいる。従業員は一握りの幹部を除いてむろん中国人。


会社  


 会社にご案内いただいた。懐かしい前任社長の来訪とあって現社長を先頭に私達夫婦まで大歓迎してくれた。応接室での茶飲み話では、国民性の違いがもたらすビジネスの難しさにとどまらず、そこでの企業戦略も話してくれた。それによると、賄賂ビジネスは目に余るものがあって、確実に落札するはずの仕事が一夜でひっくり返ることも珍しくない。当たり前のように談合で棲み分けを決めるのだが、賄賂がモノをいってしまうのだという。「そこには信義も何もない」。この社長はそれまでの中国市場一辺倒から欧米への輸出重視に舵を切った。中国を30%に抑え、アメリカを中心の欧米貿易70%にシフトした。



 30年ぐらい前のことだっただろうか。山梨県のあるダンボール会社が中国北部の黒龍江省に進出。割り箸の現地法人を立ち上げた。その合弁企業は先端技術を持った先の会社と違って日・中の出資比率は逆だった。結果的に撤退を余儀なくされた。数日前、国際ロータリー2620地区第一分区のIM(インター・シティ・ミーティング)で、その社長にお会いした。社長はしみじみ言った。「あの国での商売は難しいですね・・・」。




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教えるもの?盗むもの?

刺繍展示



 上海から車で小一時間。江蘇省は蘇州市の市街地の一角にある刺繍研究所を訪ねた時、「なるほど・・・」と頷く半面で、なんともいえない違和感を覚えたものだ。作業机を並べ、職場を共にする職人さんがすべて刺繍の裏側を覆面にしているのである。この研究所は私達のような観光客、しかも内外不特定多数の人たちに買い物を前提に見学を許しているのだから、当然のことながら、その道の専門家も虎視眈々と見に来るだろう。伝統の裏技をみすみす盗まれるようなヘマはしまい。


刺繍1



 伝統は守ってこそ伝統。特殊な技術や裏技は守り育ててこそ値打ちがある。そのこと自体は私のような盆暗でも分かる。でもここでは≪職場≫の同僚同士でさえ、その技術を教え合わない。両面刺繍の裏面でのテクニックを外部に漏らさないばかりか、親しい仕事上の仲間にも秘密だという。両面刺繍だから表から差した糸は裏で恐らく特殊なテクニックを施して、また表に返す。これが糸かと思うほど極細の糸を使っての気が遠くなるような連続作業なのだ。




 表側の作業を見る限り、≪気が遠くなる連続作業≫の匠の技を百歩譲って「へえ~」と驚き、賞賛する程度に収めたとしても、気懸かりなのは同時に行なっている裏面での作業。それぞれの職人さんたちが大きな布で覆い隠しているので、まさしく≪裏技≫は誰にも見えない。裏面で糸を返す時に施すテクニックは匠一人一人の固有の財産なのだろう。その技は単なる裏技ではなく、匠たちの修練がもたらす知恵の結集であることだけは容易に想像出来る。


刺繍展示2


 陶芸、彫刻、漆工芸、錬金、宝飾・・・。日本にも伝統工芸といわれるものはいっぱいある。むしろ、繊細な技術に長けた日本人だからこそ、世界的に見ても、その種類や、それに携わる匠の数は多いのだろう。しばしばテレビや雑誌に登場して、その人生を語る匠たち。そこには、それぞれの道を極めたり、極めつつある人達のなんとも表現の仕様がない風格と自信に満ちた顔がある。




 匠とは言わないまでも、おしなべて職人と言われる人達は「仕事は教わるものではなく盗むもの」と、よく言う。「盗む」という言葉がよくないとすれば、優れた技をいかにして自分のものにするかの貪欲さだ。「技を盗め」の反対語は「手取り足取り教える」。生産性を追い求めたり、何事においても忙しい現代社会にあっても、およそ匠とか職人と言われる人達は「手取り足取り」の教え方はしない。


刺繍2


 どんな仕事でもそうかも知れない。「手取り足取り」教わったとしても肝心の教わる側がそれへの意欲がなかったら結局は元の木阿弥。その逆に意欲ある者はその仕事や技術を「盗む」こともする。これも何の事はない。意欲がないものにいくら教えたって所詮はダメ。時間がゆったり流れていようが、いまいが匠や職人の技は技術や知識への貪欲さに源があるのだろう。「手取り足取り」の教育ママ、教育パパは増える一方。そこで無理やり教えたものは≪本物≫にはならない。いつの世も本物の技や知識は貪欲に盗むものかもしれない。




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刺繍の神業

刺繍2


 透き通るように薄い絹地に表側にはダイアナ妃裏側にはチャールス皇太子。パンダやトラの両面刺繍ならまだしも、男と女、顔形も全く違うお二人の顔を両面刺繍するこの技。どう考えても分からない。表と裏側が反対の図柄になるだけのパンダやトラの刺繍ならともかく、全く違う絵を両面で刺繍するのだから、神業以上の神業。不思議を通り過ぎて、キツネにでもつままれたような気持ちになった。




 中国は江蘇省蘇州市の中心街の一角にある刺繍研究所。そのたたずまいは一見、どなたかのお屋敷といった感じ。広い敷地にある幾つもの建物は回廊で繋がっている。もちろん中国風の古めかしい建物で、一階はそれぞれが製品の展示コーナー。二階が主に刺繍の作業場になっていた。二階で作った作品を一階に展示、販売もしてくれる。その値札を見てびっくり。日本円に換算して数万円のものもあれば、数十万円、数百万円、さらに何層もの屏風に描かれた刺繍の置物には一千万円単位の値札が付いていた。




 それもそのはず。一枚の刺繍を仕上げるのに一年も二年も、もっと時間をかけるものだってあるのだという。例えば、パンダやトラ一匹を描くにしても、その毛一本一本を、しかも、その部位に合わせて太さが微妙に違う糸を巧に操りながら一針、一針刺繍していくのである。私のようなズボラな人間なら、まっぴら御免。まさに気の遠くなるような仕事だ。かつて何人かの中国の友人に刺繍のお土産を頂いた。全く何気なく貰っていたが、「あれは、高価なものだったんだなあ~」と、改めて心の中で申し訳なく思った。


刺繍



 二階の広い作業場には、大きな作業台ともいえる机が両方の窓側に並び、職人さんが同一の方向に向かって座り、糸と針を操っていた。職人さんはいずれも女性。不思議なことにどの作業部屋にも男性は一人もいなかった。年恰好は30代から60代くらいまで幅広い。中には、見習いだろうか、20代の若い女性の姿も。刺繍は中国の伝統工芸。片や「水の都」でもある蘇州は刺繍のメッカなのだ。刺繍研究所は古くからの蘇州の象徴であり、誇りでもあるのだろう。


猫の刺繍



 パンダやトラなどさまざまな動物、牡丹や蓮の花、湖や太古の山をあしらった風景・・・。中国の南部、桂林に見る水墨画のようなものもある。職人さんたちは、それぞれが作業台の脇に図案の絵を置き、一針、一針、作業を進めていくのだ。原寸大の図案を見ながら人間の髪の毛よりもまだ細い糸で絹地のキャンパスを埋めていくのだから気の遠くなるような時間と経費がかかるのも当然。その動きは実にのんびりしていて、時にはケイタイでなにやら話している。どの作業部屋にもゆったりした空気が流れていた。


刺繍3



 そんな作業部屋にも極めてシビアな光景が。どの職人さんも自分の刺繍の裏側は見せないのだ。針を刺す裏側での技を隠すように布切れで覆い、そのテクニックを覆面にしているのである。マツタケ採りの名人がその狩場を我が子にも教えないといわれるように、この人たちも、その技はマル秘。ダイアナ妃とチャールス皇太子の両面刺繍も開発者のマル秘中のマル秘。伝統工芸はそうして守られ、後世に伝わっていくのだろう。




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神輿と梯子

神輿



 似て非なるもの。その逆もある。神輿梯子。全く違うものだが、なぜか≪近く≫にあるのだ。言うまでもなく神輿は祭りの象徴。法被にねじりハチマキの若い衆が担ぎ、勢いよく街を練り歩く。一方、梯子は植木の剪定など高い所への梯(かけはし)である。ここまでだったら全く別の存在。




 ところがこの二つ。政治の世界では案外すぐ近くにあるのだ。例えば、選挙で候補者を立て、その人を神輿に例えて支持者が担ぐ。むろん、神輿に乗った人が主役であることは言うまでもない。これも例えの話だが、神輿に祭り上げた人から≪手を引く≫ことを「梯子をはずす」という。高い所に持ち上げられた人は梯子をはずされたら下に降りられないのは当たり前。それどころか、なんともさまにならない。



神輿2


 このところ毎朝、新聞を開き、またテレビを点ければ沖縄普天間基地移設問題で苦境にあえぐ鳩山総理が。8ヵ月ちょっと前、総選挙で勝った民主党の≪神輿≫に乗っかって颯爽とわが国のトップリーダーとして登場した人だ。「みんなで総理を支える」。内閣や与党・民主党はそれぞれ個々の温度差を我慢して、口を揃えるのだが、さて、それがいつまでもつのか。2ヵ月後に参議院選挙が控えているから始末が悪い。みんながその選挙を意識するのは当然。鳩山さんは、梯子をはずされかねない立場にいる。





 そんな内閣と与党・民主党を糾弾する野党・自民党の谷垣総裁だって同じ。総選挙で大敗した自民党の再生の旗頭として神輿に乗った谷垣さん。離党者が相次ぐばかりか、そのリーダーシップに党内の不満はくすぶり続けているのだ。これまた神輿に架けた梯子は心もとない。この世界には信頼もなければ、信用という言葉もないようにも見える。





 その政治の世界に神輿と梯子は付き物。しかし、その神輿は古今東西、勢いを持続した試しはないし、その節目節目で梯子が登場するのである。梯子は架けるばかりでなく、いとも簡単にはずされるのだ。架けるのも、はずすのも政治家達のご都合主義以外の何者でもない。国民のためでもなければ、ましてや天下国家を考えたものでもない。煎じ詰めれば「自分のため」。


太鼓2           太鼓


 毎年5月5日、山梨市の私達の地域では氏神さん・大石神社の春の例大祭が行なわれる。この日は「こどもの日」でもあって旧村の4地区から子供神輿が繰り出す。「祭」を染め抜いた法被姿の小学生が色とりどりの紙の花で化粧された≪樽神輿≫を担ぐ。こちらの神輿は政治の世界のそれと違って、いたって可愛らしく、愛嬌がある。地域の人たちは巡回して来る神輿を祝儀袋片手に待ち受けるのだ。「がんばれ」。心から声援を贈る。


子供たち



 ところが主役の子供の数は年々減る一方。少子化は農村部の片田舎ほど顕著で、その波は都市部へと広がっていく。この子供神輿一つとっても≪臨界点≫に達しようとしているのだ。地区ではやはり子供たちが主役の道祖神祭り(小正月行事)も含めて応援体制を敷いた。子供たちの思い出に繋がる行事を守ってやろう。地域の大人たちは≪梯子ははずさない≫と、言外に申し合わせている。育成会への助成もしている。




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発展と醜さ

中国館


  案の定だ。上海万博が開幕して一週間。連日、報道されるテレビのニュースを見ながらそう思った。人口は統計上の13億人どころか実際には14億人とも15億人とも言われる中国。しかも経済的にも社会的にも国内格差が著しいと言われながら、その発展ぶりが目覚しい国での万国博の開催。そこに押し寄せる人の数は推して知るべし。日本で開かれたあの大阪万博の2,000数百万人の3倍、7,000万人もの入場客を見込んでいるというのだから、大なり小なり混乱があったって不思議ではない。オリンピック(北京)を体験したとは言え、万博は初体験。むしろ多少の混乱は当たり前だ。




 言ってみれば、そんなことは≪想定内≫の話。中国国内はむろん、その国を知っている人なら大方の見当がついていただろう。だからそんなことはどっちだっていい。問題はそこで繰り広げられる醜さだ。人気パビリオンの入場整理券を奪い合い、ののしりあう。行列の割り込みや無視も平気。殴り合いだって珍しくない。テレビ画面に映し出される、そんな光景を見ながら「やっぱり・・・」と思った。

上海



 「自分だけがよければいい」「先に前に出たものが勝ち」。たまたまだが、その万博開幕の丁度一ヶ月前、上海を訪れた時、同じような光景はいやと言うほど見せ付けられたし、案内をしてくれた中国人氏の口からも、その現実を認める説明も。「自分だけがよければ・・」
そんな光景が誰の目にも分かるのは日常的に繰り広げられる車と人のドラマだ。そこにはルールも無ければ秩序もない。無謀な車の割り込み、追い越しも平気なら赤信号を無視しての横断歩行や高速道路上での危険極まりない待ち合わせの相乗りだって平気。



 もちろん中国の人たちがみんなそうであるわけではない。ただ、はしこい人達は「ノロマをしていたら負け組み」と考えているのだという。車を追い越すのと同じように隙あらば人を追い越そうとする。当然のことながらそこにあるのは利害以外の何者でもない。社会主義の国でありながら、はしこい人達は改革開放経済と言う名の≪資本主義≫経済を先取りして突っ走る。株式はむろん、マンション投資など不動産投機に狂奔、巨万の富を得る人たちも珍しくない。そんな力が今、この国のバブルをどんどん膨らませているのだ。


道路


 皮肉なことに、その活力の源は「自分こそは・・・」「我先に・・・」の心にほかならない。連日、上海万博で演じてみせる、あの混乱と人々の醜さは、全くの無関係ではない。そこには「礼節」どころか「恥ずかしい」とか「見苦しい」などと言った自己規制は微塵もない。これが儒教思想の国? 万国博は世界各国・地域の科学の粋、つまり文化の競演である。それを見るには、それなりの心のゆとりがなければならないはずなのに・・・。




 中国の発展は目覚しい。日本を抜いてGDPでは世界第二位の地位に上り詰めようとしている中国。今度の中国行きで見たものは、紛れも無い急激な発展ぶりと、その一方であっちこっちで人々や、さまざまの事象が見せるちぐはぐ現象。そう言っては失礼だが、ヘンな国だ。ただ、そこはかとない底力は感じざるを得なかった。




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日本人の通り道

  獣道。文字の通り、鹿や熊など獣が通る道だ。山を歩いたことがおありの方なら、そんな「道」に出っくわしたことがおありだろう。人間ばかりでなく、獣だって習慣的に通る道があるのだ。今は女房からでさえ「メタボ人間」と蔑まれるわが身では、山登りどころか、ハイキングに毛が生えた程度の山菜採りだっておぼつかないのだから、そんな道に遭遇するはずがない。今は昔、そんなメタボ人間にだって、スリムで山を自在に飛び回った頃もあったのだ。


乙女高原2



  藪を縫い、曲がりくねりながら伸びる細い道。恐らく、人間には計り知れない動物達の悲喜こもごもの「ホームグラウンド」であり、「生活道路」の証なのだろう。その道のどこかに鹿や熊の親子が・・・。そんな思いを巡らすと、何故か少年のような夢の世界にも、いざなってくれる。毎年夏、ボランティアでユネスコの国際子供キャンプを率いて山梨、埼玉の県境にまたがる奥秩父連峰の乙女高原に行くのだが、あっちこっちに散らばる鹿やウサギの糞に出っくわした時、そこを飛び歩いていた野生動物の姿が頭に浮かぶ。そんな瞬間は結構楽しいものだ。このGW中も、その下見で登った山で何度も出会った。


乙女高原
乙女高原


 人間の通る道を獣道と一緒にしたら叱られるかもしれないが、人間にもそんな道があるような気がするのだ。外国旅行、特にツアー旅行の時である。ハワイであれ、イギリス、フランス、スペイン、イタリアであれ、日本人が歩く道は大なり小なり同じ。その昔、「ノーキョーさん」と揶揄された「旗」を立てての旅行はさすがに姿を消したものの、時代と共に変わる人気スポットは、ツアーを仕組む旅行社が違っても、そんなに変わるものではないらしい。私達はそのことに案外気付かないのだ。

旅行
コロンビアで


 いるいる。どこに行っても日本人に出っくわす。むろん相手側もそう思っているのだろう。二月、三月の春先には、卒業旅行と称した学生さん達、また一年を通しておばさんたちのグループが目立つ。新婚旅行らしい若いカップルだって少なくない。行く先々で日本人に会うものだから、とてつもなく沢山の日本人が外国のあっちこっちを歩いているような錯覚に陥るのだ。




 よく考えてみたら、何の事はない。成田や関空を毎日同じ時間に飛び立ち、同じような観光スポットを歩いているのだから、やたらと日本人に会うのは当たり前。会わない方がおかしいのだ。野生動物の獣道ならぬ人間達の旅行道を歩いているのに過ぎないのである。恐らく飛行機、一機か二機分に過ぎないお客の数だろう。



クルーズ


 それが証拠に、日本のツアーを外れて旅行してみたら、不思議と思えるほど日本人とは出っくわさない。丁度一年前のアメリカ旅行(大西洋―パナマー太平洋クルーズ)、今度の中国旅行(上海、蘇州)では、まったくと言うほど日本人の顔を見なかった。ちょっぴり孤独感を味わわないでもないが、広い外国、それが当たり前だ。出発時間、朝食、荷物出しの時間に到るまで、時間に縛られた旅行はもううんざり。これからは獣道ならぬ旅行道から外れた気ままの旅の方がいい。GWは終わった。さあ、仕事、仕事・・・。




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生活改善の不合理

 昔、生活改善という言葉があった。日常生活をいろいろな意味で合理化していこうというものだから、まったく結構なことで、未来永劫、その改善はあっていい。むしろ、何時の時代にあっても人々が暮らし易くする工夫は怠ってはいけない。しかし、ここで言う生活改善は、ちょっと違った。暮らしのパターン、特にお金、つまり経費を伴うものに、ことごとく規制をかけてしまうのである。それを今に引きずっているものも多い。


お金



 例えば、祝儀、不祝儀、病気見舞いの金額を決めたがるのだ。その殺し文句、口実は決まって「生活改善」。同じ地区内でも人は付き合いの程度、深さはみんな違うし、過去からの流れも違う。心の中ではみんな一抹の戸惑いを感ずるのだが、何事も「華美に陥らないように」という表向きの精神に反論する余地はない。




 この辺りまでだったらまだいい。地域によっては葬儀の場合の生花を飾る習慣にまでブレーキをかける地域も。お葬式は隣組を中心に運営されるが、施主のお付き合いの範囲は、当然のことながら、その地域にとどまらず、広範囲にわたる。そんな「生活改善運動」を知るよしもない相手側は弔意の印としての生花を届けてくる。さて困ってしまうのが施主側。「地域の約束事だから・・・」と、その生花をそのまま処分してもらったという笑うに笑えないような話さえあった。その量は沢山で、当然のことながら関係者に平身低頭したばかりか、かなりの経費を伴ったことは言うまでもない。


鯉のぼり


 こんなケースも。かなり前の話だが、山梨県の八ヶ岳山麓にある九つの町や村の町村長会は端午の節句にお目見えする鯉のぼり武者のぼりの掲揚自粛を決めてしまった。もちろん「住民の声」を踏まえた「生活改善運動」の一環。「みんなが競い合うようになってはいけない」というのだ。その時から、この地域から鯉のぼりや武者のぼりが消えた。



鯉のぼり2

 「これって、本当に生活改善なの?」



 「俺、そんなに経済的にゆとりがあるわけじゃあないんだが、可愛い初孫のために鯉のぼりや武者のぼりを立ててやりてえんだよなあ~」



 当然のことのようにそんな声が出た。


鯉のぼり3



 〇〇運動。そこには必ず、それなりの提案者がいる。その提案にはそれなりの社会性をはらんだり、一見共鳴できそうな理屈がある。こと「生活改善運動」提案の背景には「みんなでやれば怖くない」といった日本人特有というか、人間の性があるのだ。例に挙げた祝儀、不祝儀、お見舞いの金額規制にしても、鯉のぼりや武者のぼりの掲揚自粛にしても、それを出来るだけ出したくなかったり、したくなかったりする人の思惑が見え隠れする。「思い思いでいいじゃないか」という声の一方で「思いやり?」の大儀が優先するのだ




 みんなを同じにする。かつての小学校や中学校の制服の起こりも同じ。さすがに今は少なくなったが、県や各種団体が外国に使節団を派遣する場合、決まって揃いのブレザーやネクタイを作った。「みんな同じに・・・」。日本は総じて豊かな国になったという。でも、あっちこっちで貧しかった時代の影を引きずって歩いている?




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饅頭「小龍包」の味

小龍包  


 餃子でもない。饅頭でもない。ましてやシューマイでもない。「小龍包」というのだそうだ。ミンチにした海老肉と牛肉を具に、餃子のように小麦粉の皮で包んだ食べ物。餃子と違って細長くはなく、丸く絞り込んだ、いわば≪餃子饅頭≫といった感じである。それを酢と千切りにスライスした生姜でいただくのだ。



 上海の中心街に程近い「豫園」の前にある「南翔饅頭店」が「小龍包」を食べさせる最も人気のレストランだそうで、昼飯時を過ぎて、もう2時近いというのに、この「小龍包」目当てのお客さんが列を成していた。日本からの≪おのぼりさん≫の私達夫婦もそこを訪ねた。この豫園界隈は19世紀半ばまで街の中心だった。


店の前で
店の前で


 洋館が並ぶエリアとは違って純中国風の一帯は東京で言えばさしずめ浅草。浅草が浅草寺を中心とした繁華街とすれば、ここは庭園の「豫園」を中心に下町の賑わいを構成している。浅草寺の参道である直線の仲見世通りと、その肋骨のような出店の通り、そこに繋がる六区の歓楽街。そんなイメージとはちょっと異なるが、直線だったり、鍵型だったりする狭い街路の両側には中国風の立派なレストランやお土産物屋さんが並ぶ。その一角には先頃訪中したクリントン米国務長官が昼食を摂ったというレストラン「緑波廊」も。



緑波廊        緑波廊2
≪緑波廊


 庭園の「豫園」の広さは別にして、お土産物や飲食店街は浅草ほど広くはないが、華やかさが凝縮されている。たまたま、この日は雨だったが、一帯は人、人、人。上海に来る中国の観光客は、一度は訪れるという名所とあって連日、人の波は絶えないのだそうだ。



 もちろん、「小龍包」を食べさせてくれるのは「南翔饅頭店」だけではない。この店の人気の秘密は海老肉と牛肉の具が醸し出す味もさることながら、その具と皮の間に入った肉汁のなんともいえないジューシーさにあるという。女、子供にはちょっと大き目かもしれないが、一口大の大きさだから食べ易い。まず皮と具の間にある肉汁を吸ってから食べるのが美味しく戴くコツだという。


食事


 テーブルには酢と生姜のスライスが入った白い小皿と一緒に、蒸篭(せいろ)に入った「小龍包」が出てくる。注文の数だけ積み上げた蒸篭の中には15~6個が無造作に並んでいる。この蒸篭一枚分、つまり15~6個食べれば、大抵の人なら満腹になる。円形の蒸篭は木製。もちろん簾のように編んである下敷きも木だ。最近、私達一般家庭では見かけなくなったが、日本の蒸篭と全く同じ。そんなことを言ったら叱られる。元祖は中国だ。


小龍包2


 コスト上の問題なのか、日本では金物の蒸し器に変わっているが、この木製の蒸篭は、極めて理論的、合理的に出来ているのだという。蒸気を蒸篭の木が吸うので、内側に水滴を作らないのだそうだ。古(いにしえ)に考えられたものだろうが、人間が生活の中で生み出した知恵はすごい。レストランの一角では「小龍包」の実演コーナーも。客席側からガラス張りの窓越しに見える厨房では何人ものコックさんが手の平で丸めた具を白い皮で手際よく丸く包む。その手つきは、餃子を作る時のそれと全く同じ。何故か先頃、この国(河北省)で起きた餃子事件が頭を掠めた。




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プロフィール

やまびこ

Author:やまびこ
 悠々自適とは行きませんが、職場を離れた後は農業見習いで頑張っています。傍ら、人権擁護委員の活動やロータリー、ユネスコの活動などボランティアも。農業は見習いとはいえ、なす、キュウリ、トマト、ジャガイモ、何でもOK。見よう見まね、植木の剪定も。でも高い所が怖くなりました。
 ブログは身近に見たもの、感じたものをエッセイ風に綴っています。

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