女房と手紙(再)

 「お父さん、ハワイに手紙、書いてよ」

 「お前が書けばいいじゃないか」

 「だって、私、ヘタだもん。頼みますよ」


手紙2


 私の従兄弟で、ハワイに住む老夫婦からの度々の手紙を受け取った後、女房とこれまた度々交わす会話だ。従兄弟は私と20違う89歳。その連れ合いは女房とやはり20違う87歳。このところ、私たち夫婦がハワイに行ったり、あちらの夫婦が日本に来たりして交流する機会が案外多く、その度に世話役となる女房の方が、この老夫婦とは仲がいい。


海



 望郷の念もあるのだろう。近況を伝える手紙や写真、贈り物が度々届くのだ。女房もまた枯露柿を作れば枯露柿を、それに山梨の名物・鮑の煮貝や老夫婦の健康を気遣っては日本の栄養剤を送ってやっている。普段、腰が軽く、フットワークがいい女房は郵便局に行っての贈り物の処理は苦にならないようだが、なぜか手紙となると二の足を踏む


エアメール   ペン


 人間、不思議なのか、当たり前なのか、女房も70近くになると、威張ったもので、時に、亭主に対して高飛車にモノを言う。ところが、こんな時ばかりは極めて低姿勢。「お父さん、頼みますよ・・・」。



 「バカっ、手紙くらい、お前が書け」


 「でも・・・」



 手紙っちゅうもんはな、自分の思ったことをそのまま書けばいいんだ。うまく書こう、なんて考えるから、億劫になるんだ。継ぎ足し、継ぎ足しでいいんだよ。うまい手紙なんて味もそっぺもないじゃないか。むしろ、まずい手紙の方が味があり、親しみや、温もりがあるんだよ。途中で間違えたら、二本棒で消して、また続ければいいじぁないか」



 「お父さんはそんなこと言うけれど、そんなに簡単にはいかないわよ」



 こんな時、私は絶対に手を出さないことにしている。いくら言ってもダメ、と悟った女房は自分で書き始めるのだが、そっと見ていると下書きをしているのだ。



 ここでまた「バカっ、下書きなんかするヤツがあるかよ。うまく書こうとしたらダメ、と言っただろう」と言ったら、女房はまた「でも・・・」。


手紙



 女房ばかりではない。私たちは手紙というものを本当に書かなくなった。もう正月から三ヶ月近くも経ってしまったが、年に一度の年賀状も決まりきった印刷文字。年賀状は出すからまだいい。暑中見舞いや寒中見舞いなんか忘れてしまった。あっという間に日本中、世界中を席巻したケイタイのメールというヤツがこれに取って代わった。


ケイタイ2_convert_20110722215531  


 そして文章などとはおよそほど遠い、あの絵文字の氾濫だ。絵文字が使いこなせないアナログおじさんのひがみ、と、お若い方々から叱られるかもしれないが、この絵文字は確実に日本語をダメにし、日本人の文章力を弱めていくと思っている。絵文字ファンの皆さん、ごめんね。毎日ポストに入る郵便物はダイレクトメールと公共料金や税金の請求書くらいのものだ。いまに、本来の郵便屋さんはいらなくなる?




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お葬式の不思議(再)

生花2


 地元紙の山梨日日新聞は、紙面の一角に「おくやみ欄」を設けて、毎朝、県内の物故者と、その葬儀の日取りを伝えてくれる。地域別に整理してくれているから見易いし、第一、便利だ。当たり前だが、結婚式などのようにお祝い事の場合は、招待状が来るから分かる。見方を変えれば、その招待状が来なければ、行けないし、行かない。




 しかし、お葬式は別だ。招待状が来るわけでもないから、何らかのルートで連絡がない限り、お伺いすることが出来ない。だから、このお悔やみ欄は便利で、必ず目を通す。うっかりすると、友人、知人はともかく、そのご家族となると、お悔やみを仕損じかねない。ご不幸を後で知って、改めてお悔やみに参上するハメになるのだ。こんな時はいい訳タラタラである。


お焼香


 病人やお年寄りが最も身体にショックを受けるのは、暑さと寒さ。だから、ご不幸が起き易い時期は夏場であり、冬場である。新聞のお悔やみ欄も、それを顕著に物語っている。この冬はいつになく寒い。正直なことに、新聞のお悔やみ欄もやたらと大きい。




 この一年、お葬式にお伺いする回数がいつもより多かったような気がする。特に、夏から秋にかけてだ。昨年の夏が異常に暑かったためだろう。誰もがそうだろうが、私も親戚や友人、知人はもちろん、地域の人達のご不幸には、何をさて置いても焼香にお伺いする。年齢なのだろうか、結婚式など慶事は少なくなる半面、ご不幸の葬儀に行く回数がやたらと多くなった。

葬儀


 山梨の場合、葬儀の弔問は、特別の都合でもない限り、通夜と告別式の両方にお伺いするのが半ば慣例だ。弔問者は黒の礼服(略式)を着て列を作り、僧侶もお経の中身は違っても、同じようにお経を読む。だから弔問者の数は通夜、告別式共にほとんど変わらない。




 東京や埼玉、神奈川など他都県の葬儀にお伺いしたことがあるが、一般の弔問客のほとんどは通夜の一回。告別式は親族、つまり、お身内の方々中心のようにお見受けした。通夜に、焼香に来る一般の弔問客の服装を見ても、ネクタイだけ変えて、スーツは平服。会社の帰りに弔問するケースが多いという。いかにも都会の合理性が浮き彫りになっているように見えるのだ。




 いつ頃から葬儀当日に行うようになったのか分からないが、いわゆる、ぶっつけ七日と呼ばれる初七日法要の仕方も違う。東京などの方式が親族中心であるのに対して、山梨は多くの一般をも巻き込み、参列者は100人,200人は当たり前。多いケースでは斎場には入りきれないので、ホテルなどで300人を超す規模の法要も。


盛り籠


 各地に斎場が出来て、かつての自宅葬はほとんど姿を消した。農協、つまりJAも参入して斎場業界は、そのシェア拡大にヒートアップ気味だ。人間、誰しも迎える終末。遺族が受け持つ葬儀の仕方も所変われば、である。いつかはみんなが行くあの世へのお見送りもさまざまで当たり前か・・・。




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犬の散歩(再)

犬


 庭の植え込みと葡萄園の向こうを東西に走る幅六尺弱ぐらいの古道を、近くのおばさんが大きな犬に引かれるようにして通る。ふと、机の脇を見たら、時計の針は午後五時ちょっと過ぎを指していた。この散歩、毎日の日課のようで、決まってこの時間に通る。今日は寒い。おばさんは、夏場に農家の主婦が日焼けを防ぐために、両方の頬まで包むように使う大きなつばつきの帽子を頭からすっぽり被って、寒さに完全武装といった格好だ。





 ひと頃より、陽が長くなった。あたりはまだ明るい。こうしてパソコンを叩いている私と目が合ったのか、おばさんはぺこっ、と頭を下げた。私も窓越しに頭を下げた。立ち上がって窓を開け、手招きをすると、おばさんはニコニコしながら石の門柱の間を通って、30mぐらいのじょう口をゆっくりとこちらに入って来た。


裏道3


 「毎日、よく歩きますねえ」



 「この犬、繋ぎっ放しじゃあ、可愛そうだからねえ・・・。でも、本当は自分のため。言ってみりゃあ、このワンちゃんに一緒に歩いてもらっているんですよ」



 おばさんは、足元に静かに座り込んだ身長7~80cmもありそうな大きな犬をいたわるように見ながら



 「私等、こうでもしないと、一日中、なんぼうも歩かんですもの。野良に行くのは軽のトラック、買い物も、もちろん車ですもんねえ・・・」



 「そうだよねえ。俺も、ここに帰ってきてからというもの、本当に歩かなくなっちまった。寒いから家に籠ってパソコンなんか叩いていりゃあ、なおさらだよねえ。暖かくなったら万歩計でも買って、歩くことにするか・・・」



 「そうですよ。人間歩かにゃあいけませんよ。この辺でも、みんなよく歩いていますよ。お若い人だってねえ・・・」



 「ところで、おじいちゃんの足腰はどう・・・」



 「それが、あんまりよくないんですよ。特に寒い時期だからねえ。病人と二人暮しだと、こうでもして、外でも歩かないと、気がめいっちゃいますよ。私ゃあ、このワンちゃんと話しながら歩くんですが、知らず知らずのうちにワンちゃんに愚痴を言ってるんです・・・。さあ、ぼつぼつ帰って、おじいちゃんの夕飯の支度、しなきゃあねえ」




 おばさんのご主人は、もうとっくに80を過ぎている。体の具合も悪いから、もちろん畑仕事なんか出来っこない。やっと、かなりの面積の葡萄園やサクランボ畑を耕作してくれる人を探して委ねたという。



 「おばさん、ほうれん草、持って行ってよ。俺が作ったもんだから、大したもんじゃあないけどねえ」



 「いつも、済みませんねえ」。年老いたおばさんは新聞紙に包んだ、ほうれん草を小脇に抱え、また犬に引かれて帰って行った。その小道を、このおばさんとすれ違うように中年の夫婦がやっぱり犬を連れて歩いてきた。陽はすぐ西の山にとっぷりと沈もうとしていた。


裏道2



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結婚式の今昔(再)

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 桜が咲き乱れる春爛漫には、まだしばらく時間がかかるが、その前座を担う梅は、あっちこっちで花開き、これと歩調を合わせるように人間達の営みも春の幕を開けた。若者達の結婚式もその一つ。春の結婚シーズンの到来である。


ブーケ


 カレンダーを見たら「友引」だった。知人の息子さんの結婚式にお招きを受けた。甲府の湯村温泉郷にある甲府富士屋ホテルの披露宴会場。黒のスーツに白のネクタイ姿の男性陣、和服を着飾ったご婦人方が沢山のテーブルを埋めていた。招待客の数はざっと見ても300人近くいるだろう。



 「大変お待たせしました。新郎新婦のご入場でございます」



 男性司会者の甲高いアナウンスと共に会場の照明が落ち、中央の扉が開いて新郎新婦が登場。ちょっと強めのBGM.と嵐のような拍手。スポットライトに浮かび上がった晴れやかな若い二人は、いっぱいの笑顔をこぼしながら会場正面の雛壇に着く。司会者は地元テレビ局の若手アナウンサーだった。


結婚式4


 披露宴の始まりである。ここまでは、このブログをお読みいただく≪経験者の皆さん方のそれ≫も、大なり小なり同じだっただろう。まったく違うのは仲人さんの存在だ。かつては新郎新婦の両脇には二人の縁を取り持った仲人さんご夫妻がいて、「それでは、新郎新婦のご紹介も合わせまして、媒酌人としてのご挨拶を・・・」と続くのである。




 ところが、この仲人さんがいつの間にか雛壇から消えた。この10年ぐらいの間だろう。ひと頃は結婚式の脇役として重要な役割を果たした媒酌人・仲人さんは、その言葉すら死語になったと言っていい。その過渡期で、恐らく方便だろう、「人前結婚式」などという言葉を使ったのだが、これもほんの一時。若者達は、あっ、という間に新しい結婚式のスタイルを作った

結婚式3


 ただ変わらないのは招待客の多さと宴の中途で行なう余興だ。山梨だけかもしれないが、招待客の数は200人、250人は当たり前。多いケースだと300人、400人、時には500人前後の大型の披露宴もある。若い二人にそんな広い交際範囲があるわけではないから、こちらは親側の判断。ただ、このド派手な披露宴、不況とどのように連動していくのか・・。


結婚式2


 一方、親達とは関係なく、若い二人が仲間達と演出する余興というヤツだ。新郎新婦の勤務先の上司や親の知人でもあるお歴々など、いわゆる主賓のご挨拶や何人かのスピーチが終わると、それを待ち受けていたように始まるのが宴の余興である。もちろん、「愛は二人のため」?など結婚式にちなんだ歌をカラオケで歌うくらいはちっとも珍しくない。


結婚式1


 ドタバタと言ったら若い方々に叱られるかもしれないが、若者達はさまざまの芸を披露するのである。どこで調達するのか貸衣装をまとい、役者さながら化粧までして登場するのだ。みんなの呼吸を合わせなければならないので、事前の練習もしているのだろう。まるで子ども達の学芸会さながらである。今の若者達は表現力が豊かになっているのだろうか。それとも、だんだん強まる自己主張の現われ?とにかくみんなが楽しそうにやっているのだからいいのだろう。水をかけることもあるまい。結婚式の今昔である。




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蛍が一匹

蛍


 蛍?立春を過ぎて間もない、この寒空に蛍でもあるまい。その通りだ。世の中の虫たちが動き出すと言われる啓蟄にさえまだ間がある。ここで言うのは蛍族といわれる寂しい人間のことだ。タバコをお吸いにならない方々には縁がないばかりか、ご存知なくて当然。夜、自分の家であるのに家族から締め出されて、一人寂しくタバコを吸う亭主たちを言うのだそうだ。


タバコ


 この蛍は、夏の時期に限らず、春夏秋冬、一年中生息している。本当の蛍は人間がもたらす自然の破壊で、どんどん減っているが、恐らくこちらはどんどん増えているのだろう。定かなことは分からないのだが、わが国の喫煙人口は、恐らく減ってはいるものの、激減と言うほどでもあるまい。健康志向の年配者が禁煙に動いている一方で、次々と、はたちを迎える若者達や、ダイエット?やファッション?を考える女性がその数を埋めているからだ。




 喫煙人口はともかく、喫煙者はますます悪者扱いされ、隅へ、隅へと追いやられていることは間違いない。バスや電車は当たり前、飛行機も禁煙になって久しい。ホテルや旅館、会社、官庁のオフイスだって同じだ。喫煙者は肩身が狭くなる一方だ。


タバコ



 世の女房族が強くなるばかりの家庭にあっては、何をかいわんやである。小さな部屋でタバコをプカプカ吸われたら嫌に決まっている。部屋の壁や柱ばかりか、衣服まで臭いが染み付く。吸っている本人だってそのことが分かるのだから、吸わない人が不快に思うのは当たり前のことである。




 私も小さな蛍。小さな、と言ったのはそれほどのヘビースモーカーではないからだ。お酒を飲んだり、マージャンをする時以外はほとんど吸わないのだが、晩酌の後、なんとなく、一服が欲しくなるのである。そう言うと「私をバカにしているのね」と叱られるので、大きな声では言えないのだが、女房ならそれほど気に留めないのに娘に「お父さんダメ」と言われるのが怖い。




 仕方なく、そっと外に出て、その蛍なのだ。すると、あっちから一匹の蛍が。近くの中年のオヤジだった。

夜


 「あなたもですか?」



 「ええ、うちは女房がうるさいものですから・・・。佇んでいると寒いので、こうして歩きながら吸うんです。いい訳かもしれませんが、散歩も出来るし、一石二鳥ですよ」



 この中年オヤジは笑い飛ばすように、さらりと言うのだが、その後姿は、やっぱり寂しそうだった。その中年オヤジもそうだろうが、女房達が喫煙をただ嫌がっている訳ではないことはよく分かる。亭主の健康を気遣っているのだ。




 特に娘の場合、「お父さん、身体に悪いよ。だからタバコ、止めて・・・」と、いかにも心配そうに言う。これには本当に弱い。「娘の言う通り、やっぱり止めよう」と、思うのだが・・・。そんな蛍が今夜も寒空に一匹・・・。よわったものだ。




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顔を出したフキノトウ(再)

芽


 冷たい冬の雨が凍っては解け、解けては凍る。それを繰り返しながら、だんだん道や畑の土を自然の土に戻していく。土を盛り上げた霜柱がいつの間にか消え、そこから水仙やチュウリップの青い芽が。時折降る雨も氷雨と言うには、もうそぐわない。なんとなくだが、朝が来るのが早くなり、夕方の陽も長くなった。



 「お母さん、もう、フキノトウが出ているかもしれないぞ。畑、見てみたら・・・」


ふきのとう


 早速、庭の植え込みに近い我が家の畑の片隅を見に行った女房が小さな笊にいっぱいのフキノトウを採って戻ってきた。


ふきのとう2


 「ありましたよ。こんなに沢山。天ぷら?それとも酢味噌和え?お父さんはどっちがいいんですか?」


 「うう~ん、俺は酢味噌和えだ。いやいや、天ぷらもいい」



 女房は居間とカウンター一つ隔てたキッチンへ。そんな時の女房の顔は、いつもより生き生きしている。間もなく台所からは、なんとも言えないかぐわしい春の香りが。



 「そういえば、今日は節分だなあ。あいつ(娘)が帰ってきたら、豆まきをしなきゃあ・・・。豆は買ってきたか?」

豆まき


 「そんな事、抜け目はありませんよ。用意は万端ですよ」



 「お前は、いつも間が抜けたことが多いが、こんな時ばかりはしっかりしているな・・・」


 「それがよけいよ。お父さん、いつも一言、多いんだから。まったく・・・」




 山梨には甲府盆地に春を告げる、と言われて近郷近在の善男善女を集めて賑わう大神宮祭
という祭りがある。いわゆる節分際だ。6年前の年男に招かれたのをご縁に毎年、豆まきに行っていたから、このところ、我が家の豆まきは女房にまかせっきりだった。今年は、それから開放されて、久しぶりに我が家で豆まきが出来る。

大神宮祭



 大神宮祭の豆まきのように烏帽子、長袴スタイルではないが、家族三人揃っての豆まきもいい。無病息災。今年も家族みんなが元気に過ごせますように・・・。思いっきり元気に福を呼び込もう。ちょっとと言うより、外はかなり寒いが、家中のサッシ戸を全て開け放って「福は内~、鬼は外~、福は内~、鬼は外~」。隣の老夫婦の声も聞こえた。ちょっと、こちらよりトーンが低かった。そういえば、持病の腰が痛むと言っていた。気掛かりだ。今年もみんなが元気でいたいものだ。



 何はともあれ、豆まきが済めば、フキノトウで一杯だ。あのホロ苦い味、あのえもいわれぬ香り。酒のつまみにはこれがぴったりだ。うまい。



 「お母さん、もう一本、持って来い」



 「そのくらいにしたら・・・。そんなに飲んじゃあ身体に毒ですよ」



 ここから先はいつもとまた同じである。



 節分が明ければ立春。と言っても、一足飛びに春と言うわけにも行かない。でも気分的には、これまでとはちょっと違う。よし、明日はやりかけの植木の剪定や、その後始末を再開しよう。周りの葡萄園や桃畑では、やっぱり剪定作業が進んでいる。剪定は木々が水を上げ始める前に済まさねばいけないのだ。いつまでも家に籠っているわけにもいくまい。


節分


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定年退職と女房達(再)

「やまびこさんは引退後、上手に生活されているようですね。うちの夫が定年後、家にずっといると思うと、ゾッとします(笑い)。毎日、通勤が大変で、辛いことも分かるのですが、毎日、出掛ける所がない、というのも辛いことでしょうね」


家


 東京にお住まいの方だろう。私のブログをお読み頂いている「らいり」さんからの、こんなコメントを拝見しながら、ふと、東京の知り合いのことを思い出した。もう20年近く前のことだが、会議か何かで上京した時のことである。後ろから私の名前を呼ぶ声がした。こんな東京のど真ん中で私を知っている人なんかいるはずがないと決め込んで、振り向きもせずに歩いていたら、息を切らすように駆け寄ってきた人に肩を叩かれた。


東京


 以前、仕事の関係でお世話になったことがある大手広告代理店の幹部だった。



 「冷たいじゃあないですか。後ろ姿で、あなたと分かったものだから、駆けて来たんですよ」



 「これは失礼しました。こんな所でお遭いするとは、奇遇ですねえ。ところで、今はどちらの部署に?」



 「私は来年、定年。言ってみれば、もう窓際なんです。だから定年後を考え、仕事が終わった後、料理教室に通っているんですよ」



 「料理教室?」


調理


 「そう。料理教室。私等、サラリーマンは40年近く、自分で飯を作ることも知らずに、せっせと働いてきた。付き合いゴルフぐらいのもので、これといった趣味も持たず、働くばかり。ふと、気づいたら定年。料理教室は趣味と実益の一石二鳥なんですよ。第一、同じような境遇の人達が集まるから面白い。競争も利害もないから妙に心も通じるんです



 「へえ~、そんなもんですかねえ~」



 「あなただって、その時になれば分かりますよ。毎日、家にいれば、そのうち女房だって、たまには自分でおやりになったら・・・なんてことを言い出しかねません。友達? 会社や仕事上の仲間なんちゅうものは、案外、その場限り。生活のリズムが違ってしまうんだから、趣味という共通項でもなければダメ。いずれ、友達関係は消滅しますよ」




この人はこんなことも言った。



「あなたのように山梨の地方に住んでいれば、恐らく、耕す土もあれば緑の自然もある。隣近所の付き合いも。でも、私等、鉄板一枚のドアで隣と遮断されたマンション暮らし。女房と二人きりになった、その様を想像してみてくださいよ」

東京2



東京の日比谷を歩きながら交わしたざっと20年前の会話。あっ、という間にその20年が過ぎた今、この人の言葉の一つ一つが頷ける。そして「らいり」さんが冗談とも本音ともつかないように言う「夫が毎日、家にいると思うとゾッとする」と言う言葉も、よく分かる。




「おじさん達、寂しいこと言ってるね、って?」。そう言う、お若い方々だって、遅かれ早かれ来る道なんですよ。ただ、不思議なことに夫婦喧嘩だけは確実に少なくなります。



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野良猫の渡世

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 「お父さん、一度、愛宕山こどもの国のプラネタリュームを見に行きましょうよ」


 「そうだなあ・・・」


 ここで言う愛宕山は東京ではなく、山梨県は甲府市。東京の愛宕山はNHKの放送、と言うより我が国のラジオ放送が始まった、あの愛宕山。さまざまな歴史の舞台に登場するからお馴染みだ。昭和20年8月15日、戦争終結の玉音放送が流されたのもこの愛宕山である。そこには、また、さまざまなドラマがあった。


科学館3



 一方、こちらの愛宕山はJR甲府駅の裏山のような所にある。甲府駅のすぐ近く甲府城址にあった県立の青少年センターなど子供関係施設を丸ごと、この山の上に移した。プラネタリュームもその一つだ。甲府城址は甲府勤番と言われた徳川幕府直轄地の城跡である。



県立科学館2



 女房がプラネタリュームに拘ったのには、ちょっとしたノスタルジアがあった。


 「私ねえ、小学校の修学旅行で渋谷(東京)の東急で、プラネタリュームを見たんだけど、いい気持ちで眠ってしまったんですよ」



 「へえ~、バカだねえ」と、笑ってはみたものの、実は、私もそうだった。室内の明かりが消え、“夕闇”と共に天井のスクリーンが星空に変わる。いつの間にか睡魔が。目が覚めたのは“天体ショー”が終わって明かりがついた時だった。


東急プラネタリウム



 亭主が亭主なら、女房も女房。似た者夫婦とはよく言ったものだ。もちろん、住んでいる所も、通っている学校や学年も違うのだが、その頃、山梨県の小学校の修学旅行と言えば、江ノ島・鎌倉と東京。東京での見所の定番といえば、皇居や、そのプラネタリュームだったのだろう。スカイツリーはむろん、まだ東京タワーもなかった。女房の運転で、甲府に行きながらのバカな夫婦の会話である。




 その修学旅行の時、東急がある国鉄(現JR)渋谷駅前で見たのが「忠犬ハチ公」の銅像。なぜかこれも記憶に残っている。忠犬ハチ公のお話しは今更、説明するべくも無いポピュラーなお話し。飼い主を心配する奇特な忠犬の話しである。女房がここでまた言う。


ハチ公



 「昔から『猫は家に着き、犬は人に着く』と言いますよねえ…」


 なるほどと思った。でも、我が家に棲み着いた野良猫。必ずしもそうではない。野良猫と言ってしまえばそれまでだが、猫は極めて気ままな生き物と、つくづく思う。ふと居なくなったと思ったら三日も四日も帰って来ない。「いったい何処でメシを食べているのだろう。ここにいればお人好しのオバサンが三度、三度…」。余計なお世話か。


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 もっと不可思議なのは野良の終末である。再び縁の下での出産の話に戻るが、三匹の子猫が“一人前”になると、そのうちの一匹だけを残してみんな何処かに行ってしまうのだ。もちろん母親も。残るのは決まってメスだけ。そのメスが、やがて行きずりの“男”と子供を作り、同じことを繰り返すのである。オス猫が残ったためしがない。




 野良猫の世界の掟?それより、もっと不可解なのは、その家を去っていく母親やオスの子供達の行く先だ。“野良の渡世”に生きることだけは確かだが、その先が全く分からない。




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野良猫の性

猫  


 とはまったく不可解な動物だ。その行動もさることながら、何を考えているのかも全く分からない。ここで言う猫とは、いわゆるペットではなく、我が家に棲み着いた野良猫のことである。




 まるで媚びを売るように足下にまとわりついているかと思えば、三日も四日も家を空けることも平気。冬の今時は、夜が明けるのが遅いのだが、朝寝坊の私たちを「ニャン、ニャン」言いながら起こすのだ。朝の餌を欲しがっているシグナルであることは言うまでもない。私たち夫婦が寝ているベッドの窓越しに騒ぐのである。


 「お母さん、あいつらに早く餌をやれよ。腹を空かしているんだよ」


 「そうだよねえ…」



 何時もは腰が重い女房も「ニャン、ニャン」の泣き声には弱く、文句も言わずに起き上がって外に出て行く。押しかけの野良であるからではないが、私たちは猫を家の中で飼わないことにしている。そのこと以前に野良達が、そんなことに甘んじないだろう。どいつも、こいつも警戒心が強く、本当は人間を信じてはいない


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 そうしなければ今日を生きていけない野良の宿命かもしれない。それが哀れでならないのだが、私たち人間には、何ともし難い。「信じてくれよ。信じても大丈夫だよ」。そう言ってみたところで、どうしようもないのだ。




 実は、私の野良猫との付き合いは、20年以上になる。サラリーマン現役時代、甲府に住んでいた時分の頃。一匹の野良猫が縁の下で子供を産んだ。三匹。それは今でも忘れないほど可愛かった。ちっちゃい体にクリクリし二つの目。一挙手一投足に愛嬌があるのだ。

 

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 出産して何日目なのかは分からないのだが、母親は、その子猫を連れて外に出て来た。母親は子供を守るために細心の注意を払うのである。その姿、心の動きが私のような盆暗人間でも一目瞭然に分かるほど。“飼い主”である私たち夫婦の前でも警戒心を緩めず、子供を自分より前に出すようなことはしない。



 ある休みの日。夏の昼下がりだった。私は休みの日には気分次第で昼間でもお酒を飲む。そんな私を外から見守る猫の親子が何となく不憫(ふびん)に思い、酒のつまみとして食卓に載っていた鮪の刺身を手の平に載せて食べさせてやろうとした。そんなこちらの“善意”が野良に通ずる筈がなかった。母猫は爪を剥いて私の手の平から鮪の刺身をひったくり、子供と一緒に植え込みに隠れた。




 分からないでもない。でも可愛げがない。私の手の平からは真っ赤な血が噴き出した。「こん畜生」。正直言って頭に来た。私の手の平には、その時の傷が残っている。その時の母親猫の鋭い目つき、そのやり方を無邪気そうな目つきで見守る三匹の子猫。子供の前でやってみせる母親の行動。「人間を信じてはいけない」。恐らく母親は、子供達に身をもって子供達に教えていたのだろう。野良は野良として生きていかなければならない。野良が故の性。掟・宿命かも知れない。(次回に続く)




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猫の言葉

ミー子2


 我が家に棲み着き、それがきっかけで仲間を呼んだ?野良猫。その野良の行く先を先回りして避妊手術をしてしまった家(うち)の女房。手際のいい判断、処置のように見えた。ところが、どっこい。どうやら、それが裏目に出た。




 二泊三日の避妊手術の入院から帰ってきた野良は、確実に変わっていた。“女”で無くなったばかりではない。性格まで変わってしまったような気がする。それが証拠に、それまで一緒にいた仲間から毛嫌いされ、ソッポを向かれるようになったのである。




 子供達ではないが、人間社会でいう仲間はずれだ。手術前までは恋人にも夫婦にも見えたペルシャ系の「白」。今は居なくなった「黒」も、まったくの“他人”行儀だ。相手にもしなければ、喧嘩もしない。それまでの、いわゆるジャレ合う光景もなく、無視。孤立させてしまったのである。


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 その先は今風の子供のいじめと同じ。孤立したトラは、それに拍車を掛けていく。皮肉なことに、昨年の秋頃から押しかけて来た、同じような毛並みのトラは気性が強く、際だって仲間はずれにするのだ。女房が餌をやる時も一緒に食べるのを拒み、嫌がらせをするのである。



 「可愛そうにねえ。お前が一番先に、ここに来たのにねえ。あいつら、理不尽だよ…」


ミー子



 女房は普段は許さない家の中に入れて、特別に餌を与えているのだ。でも、そんな“親心”も野良には通じない。次第に家にいる時間が少なくなった。この野良を「ピーコ」と呼んでいるのだが、女房は


 「お父さん、全く、ピーコは何処に行っているのでしょうかねえ。ご飯、食べているんでしょうか…」



 最近では三日も四日も帰って来ない日が珍しくなくなった。女房は、思い入れなのか、やたらと心配するのだが、私なんか、だんだん可愛げがなくなる。可愛いいだの、可愛くないの、と言った感情論はともかく、三日も四日も、いったい何処にいるのか。どこで餌を貰っているのか。


ネコ


 猫は犬(番犬)が嫌いだという。田舎故か、この辺りでは、この犬を飼う家が多い。しかも猫の行動範囲は、そんなに広くはないという。そう考えると「ピーコ」の行状が全く分からない。そんな疑問に女房は、こんなことを。



 「ピーコに聞いてみたらいいじゃない」


 「オレにゃあ、猫語が分からんのだよ」


 さて、その“猫語”。猫の世界には、猫でしか分からない言葉・猫語があるような気がしてきた。


 「オイ、お前、腹が減っているのか。餌をくれるオバサンがいるぞ。着いてこいよ」


 「あいつ、避妊手術をさせられたんだってよ。女じゃあねえんだよなあ」


 そんな会話を交わしているのかも。でも本当の主が私とは分かっていないらしい。



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野良猫と女房

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 「お父さん、猫にも“猫語”があるのかしらねえ。あの二人(匹)、何を話しているのかしら?」


 立春が過ぎたせいか、このところ、やけに暖かい。庭先の日だまりでじゃれている二匹の猫に目をやりながら女房が、こんなことを言った。


 「藪から棒に、何をバカなこと、言ってるんだ。猫語なんてものが、あるわけ、ないじゃないか」


 「お父さん、そんなことがよく分かるじゃない。猫に聞いてみたの?」



 「じゃあ~、犬や熊、猿にも言葉があるというのか?」



 暖かいと言っても冬は冬。畑に出るのもつい億劫になる。その昼下がり。バカな夫婦のたわいもない会話である。「猫語なんて…」と、言ってはみたものの、よく考えると人間にそんなことが分かる筈がない。「以心伝心、動物は動物なりに“話して”いるのだろう」。




 庭先で遊ぶ二匹の猫は、いつの間にか我が家に住み着いた野良。一匹はトラ、もう一匹はペルシャ系の白。目の周りや耳の辺りは茶色い。この二匹のほか、もう一匹トラの猫がいるのだが、どこをほっつき歩いているのか、ここ2~3日、家に帰って来ない。


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 いずれも「野良」と言ったら叱られそうなほど“品”がある。恐らく、元をただせば飼い猫であろうことは容易に想像出来る。外見ばかりでなく、立ち振る舞いにも、そこはかとない“品格”を滲ませているのだ。何処かの飼い主がドライブ途中にでも捨てたのだろう。「可愛そうになあ~」。お人好しで、バカな夫婦は、そう決め込んで、この野良達を可愛がっているのである。


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 もちろん我が家に棲み着いた時期は、みんなまちまち。最初に来たのは今、何処かを遊びほうけているトラ。勝手口で餌でも乞うように泣く姿を見た女房が不憫(ふびん)に思って餌を与えたのがきっかけ。「スーパーに行けば専用のキャッツフーズがあるぞ」。女房は早速、買って来て、朝、昼、晩、そのキャッツフーズを与えた。




 もう6年ぐらい前になる。職場をリタイアして今はすっかり“田舎人”になった山梨市の実家に戻ってしばらくした頃であった。前にも、ちょっと書いたが、女房は餌ばかりでなく、“住まい”にも気遣い、玄関先に発砲スチロールの箱を置き、その中に私の真新しい膝掛けを敷いてベッド代わりにした。




 このトラはメス。私も含めて我が家のお姫様として可愛がった。そこへ一匹、二匹と仲間が増えた。そこで女房が心配したのは、お姫様の妊娠。子(猫)育てに慣れない“母親”は犬猫病院に駆け込んで避妊手術までしてしまった。野良の避妊手術は、その病院でも珍しかっただろう。

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 女房はご近所の愛猫家から、なんと呼ぶのか知らないが、ペットをいれる籠を借りて来て病院に連れて行き、入院させての手術であった。女房は気付いていないようだが、この避妊手術が間違いなく猫の人(猫)生を変えた。(次回に続く)




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野次馬根性

大江戸博物館
大江戸博物館


 江戸の庶民に拘るわけではないが、「野次馬」という言葉は、イメージから言って江戸庶民によく似合いそう。「お前ねえ、昭和、平成の人間に、そんなことがよく分かるねえ」。その通り。300年も、400年も前のことが誰だって分かるはずがない。歴史として伝えられた、さまざまな事象から何となく、それぞれにイメージされた、これまた偶像なのだ。




 「なんだ、なんだ」。ひとたび非日常的な何かが起きると、みんなが集まって来て大騒ぎする。それが喧嘩であろうが、家庭のもめ事などつまらぬトラブルであろうが、そんなことは、どっちでもいい。そのことに興味を示し、場合によっては、その真っ直中に介入して行く。問題の解決にも一役買った。それが偶像としても、今の平成の世に、そんなお節介や、受け止めようによっては「よけいなお世話」が引き継がれているだろうか。




 昔、読んだ本に小田実の「なんでも見てやろう」というのがあった。その中身は別として、表題から伝わって来るのは、旺盛な好奇心だ。人間が、この好奇心を失ったら終わり。少々、乱暴な言葉で言えば、「棺桶に片足を突っ込んだ時」なのだ。


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 たまたま、と言ったら語弊があるが、女房は今、山梨市の結婚相談員を仰せつかっている。今日も、その会長さんという方がお出でになって“若い”男女の縁組みを話していた。この会長さんはこんなことを言った。




 「今の若い方々は、周りが黙っていれば、結婚など考えもしない。女性も男性も同じ。総じて経済力があるからでしょうかねえ。でも将来を考えると困ると思いますがねえ…」。




 女性の結婚適齢期は25歳前後、と言われる時代があった。ところが、今は…。30代の未婚女性は当たり前で、40代の女性だって珍しくない。男性はそれに輪をかけているのだ。それを苦にしているかどうかは、当事者の問題だが、それを親も周りも指をくわえて見ている。親はともかく、おしなべて周りは知らぬ顔だ。


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 少なくとも昔は、それをよしとせず、周りの誰かが縁談を持ちかけた。婚姻が成立すれば仲人さん(媒酌人)にもなった。当然のことながら結婚式では、新郎新婦の両脇に座り、セレモニーの重要な役割を担った。ところが昨今の結婚式に、この仲人さんの姿は100%姿を消した。そんな世相が未婚男女の増大に拍車を掛けているとしたら…。



 「人は他人(ひと)」、「隣は何をする人ぞ」



 そんな風潮は、なにも都会ばかりではない。田舎にもいつの間にか忍び寄っている。野次馬もいなくなれば、お節介屋もいなくなった。昔は隣組と言わないまでも地域には一人や二人、この“お節介屋さん”がいて、良くも悪くも人々の心を繋いだ。田舎に行けば行くほど、それが顕著だった。そんな田舎で生まれながらも若い頃は、それが煩わしかったほどだ。町育ちの女房なんか、ことある度に眉をしかめ、嫌がりもした。




 ところが、それが無くなってみると、どこか空虚で、味気ない気がするから不思議。人間とは、所詮は我が儘で、ご都合主義なのかも知れない。お節介屋さんや野次馬根性は少なくとも前向きな証。お節介はともかく野次馬根性だけは捨てたくないと思っている。




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長屋の八さん、熊さん

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 「火事と喧嘩は江戸の華」。よく考えれば、少々、乱暴な表現だが、江戸庶民のあっけらか~んとした日常が垣間見えて面白い。「火事と喧嘩を面白がるなんて不謹慎」と真面目なお人からは叱られそうだが、火事や喧嘩が今も昔も人を興奮させる何かを持っていることだけは確かだ。「なに言ってやんでえ~」。べらんめえ調の口調の裏に些細なことは拘らない気っ風が伺えるのだ。




 江戸の人たちは火事を見て、単に面白がっていた訳ではなく、想定する現場付近の友や知り合いの安否を気遣い、また、近くで喧嘩が起きれば、その善し悪しを無意識ながらも判断。“裁判官”の役割も果たしたのだろう。表現のイメージから今の日本人にはない江戸庶民の、あっけらか~んとした明るい日常の雰囲気が伝わって来る。




 寄席が好きで,ひと頃は東京に行って時間があれば新宿の末廣亭、上野の鈴本演芸場の木戸をくぐった。最近はご無沙汰だからその存在は定かではない。が、今でも時折行く浅草では、演芸ホールに飛び込んでは落語を聞く。登場するのが長屋の家主と店子(たなこ)の八っさん、熊さん。そのやり取りが面白い。どこか間が抜けた、八っさん、熊さんと長屋の家主が小気味のいい人間臭さを演出し、のどかな庶民生活を彷彿とさせるのだ。



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末廣亭


 その落語の世界から一歩飛び出せば、味気ない現実がある。理屈、理屈…。八っさん、熊さんもいなければ、長屋の家主もいない。良い悪いは別に、ひとたび体罰事件が起きると茶の間のテレビは四六時中、学校や先生、教育委員会を血祭りに上げる。「違った角度から見ているメディアもあるはず」。そんな救いを求める思いをよそに、どのチャンネルもみんな同じ。コメンテーターと言われる先生方も、もっともらしく口をそろえて関係者をバッシング。一人くらい、見方を変えたコメントを発してもいいのに…。




 「申し訳ありませんでした」。関係者はすぐに謝る。謝り方のパターンもみんな同じ。それならハナからやるなよ。深々と頭を下げる人たちの心の内には、きっと釈然としないものがあるはず。でも、それを言ったらしっぺ返しが怖い?その後の決まり文句は「第三者委員会を設けて…」。今では“不祥事”とセットの言葉は“第三者委員会”なのである。




 メディアの姑息はまだある。小さな言葉尻を捉えて大騒ぎする風潮である。メディアと丸ごと言ったらいけないか?メディアに携わる一部の人たちかも知れないが、平気でそんなことをする。「失言」という言葉尻が政治家の首まで飛ばす。若い記者達の中には、それを仕掛けようと虎視眈々としている者もいると言うから、なにをか況んやである。




 「未曾有」を読み間違って袋だたきにあった総理大臣だっている。いわゆる失言で首を取られた大臣だけでもここ数年間で片手では済まない。一般国民も、それを当たり前に受け止め、面白がって見ているのだ。今や内閣を組閣する時、暴力団との関係など私生活の中での隠れたスキャンダルのほか、この「失言」を最も恐れるのだという。




 もちろん、ジョークでは済まされない失言もある。でも、ジョークとして笑い飛ばす“ゆとり”だってあっていい。江戸の文化が花開いた元禄の時代から300数十年。ひとたび火事が起きれば丸焼けになった木造長屋もなくなり、そこに住む、はっさん、熊さんもいなくなった。いるのは“お利口さん”ばかりだ。



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お酒と健康

人間ドック 


 加齢現象の一つかも知れない。特に最近は物事をすぐに忘れてしまうのだが、「アニサキス」という寄生虫の名前だけは何故か忘れることが出来ない。一般的には聞き慣れないアニサキスとの“出会い“はもう20年ぐらい前の人間ドックの胃カメラ検診。下手くそな女医先生のカメラワークで「ゲボ、ゲボ」苦しんだ挙げ句の出会いであった。




 アニサキスは、鯖や鮪などにしばしば寄生し、刺身などで食べると人間の胃袋へ。大抵は胃酸で死滅してしまうのだが、稀に生き残り、腸に下りていたずらをすることがあるのだそうだ。腸に行くと胃酸はなくなってしまうので、アニサキスは元気づくのだ。時々、芸能人など有名人が、その“被害”に遭って話題になることがある。鯖には特に寄生し易いといい、鯖を酢で締めて、いわゆる「しめ鯖」で食べるのは、そのためだ。


イラスト寿司



 「寿司屋さんの舞台裏では、ピンセットで、このアニサキスを抜き取っている、なんてケースは珍しくもないんだぞ。あるいは、ここの大将だって…」



 物知りだが、口が悪いのが玉に瑕の仲間が行きつけの寿司屋で、お酒を酌み交わし、寿司をつまみながら、こんなことを言った。ニヤニヤ笑ってそんな会話を聞くともなく聞いていた寿司屋の大将。「あながち、誇張したり、ウソの話じゃあないんですよ。でも酸に弱い寄生虫だから心配することはありません」と。


人間ドック4


 瓢箪から駒。アニサキスは、かつての胃カメラ検診の忘れもしないエピソードの一つ。今になってみれば笑い話に過ぎない。むしろ人間ドックで私が真っ先に気になるのは胃カメラの結果。もちろん、肺のレントゲンも同じだが、これだけは勘弁、と思っているのは癌だ。胃癌、食道癌、肺癌…。それがクリアされるとホッとするのである。




 ところがホッとしたのも束の間。今度は心電図の異常。「心房細胞」という心臓疾患が見つかったのである。検査医に促されるまでもなく、翌朝、今度は治療のため公立病院へ。道路に残る雪。寒さも朝が早いこともなんのその。人間ドックで「ただならぬ」結果を突きつけられると、人間、何処かに必ず内蔵している我が儘やズボラさは見事に何処かに失せる。甲府にある紹介状の病院に飛んだ。


病院


 改めて病状説明を聞き、これからの治療スケジュールを聞いた後、もう一度血液や胸のレントゲンの検査。帰りがけに24時間、心電図を採るための計器を取り付けられて山梨市の家路に。計器はまるでテロ集団が使いそうな人質への時限爆弾のよう。一緒について来てくれた女房も「全く物々しいわね」。笑うに笑えない感想を漏らしていた。




 お酒とはヘンなものだ。人間ドックの検査結果として乱れに乱れた心電図の帯グラフを見せつけられた、その夜は流石に、お酒を飲む気にはなれなかった。ところが一夜明け、心電図の計器を取り付けられた日の夜は、開き直ってお酒を飲んだ。一年365日、一度も欠かかしたことのない人間だが、最初の日は何の抵抗もなく口にしなかった。



 「お父さん、お酒飲んだら死んじゃいますよ」


 そんな女房の脅しも響いた。第一酒がうまくない。うまい酒は健康の証だと熟々思った。




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プロフィール

やまびこ

Author:やまびこ
 悠々自適とは行きませんが、職場を離れた後は農業見習いで頑張っています。傍ら、人権擁護委員の活動やロータリー、ユネスコの活動などボランティアも。農業は見習いとはいえ、なす、キュウリ、トマト、ジャガイモ、何でもOK。見よう見まね、植木の剪定も。でも高い所が怖くなりました。
 ブログは身近に見たもの、感じたものをエッセイ風に綴っています。

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