豪華客船のカジノ

ベネチアン

 全体が煌びやかなネオンで埋まり、夜を知らない、いわゆる不夜城の街と言ったらラスベカス。この街のもうひとつの顔はカジノ、つまりギャンブルだ。5、6年前ロス・アンゼェルスを経て、このラスベカスに行った事がある。宿泊したのはホテルベネチアンだった。宿泊というよりはカジノにどっぷり浸かったと言う方がいいかもしれない。


ベネチアン2


 ベネチアンはホテルというより、それ自体が一つの大きな街といった感じで、そのスケールに圧倒された。ホテルの中にショッピングロードやくつろぎ、散策の広場があり、ホテルやカジノがあるといった感じである。ビルのなかの街が昼間ばかりでなく、夕暮れや朝まで演出する。また一つカジノを例にとっても、そのスペースはとんでもなく広い。ゲームの途中トイレに立ったら、その帰り、自分のテーブルを見失ったくらいだ。


ベネチアン3


 ラスベカスはカジノのメッカ。しかし、その規模ではマカオがラスベカスをしのいだとも言う。マカオのカジノには30年ぐらい前、会社の同僚と行った事があるが、もう街全体ががらりと変わっているのだろう。私は自分が根っからの勝負事好きではないかと思うことがある。ちょっと誘われればソウルぐらいならいつでも飛んでいってしまう。今年の秋に、中学時代の同級生と、またソウルのカジノに行くことになっている。




 昨年のハワイ、アラスカの旅でもラスベカスに足を伸ばす予定だった。それを取りやめたのはアラスカクルーズでカジノを楽しめたし、今度のカリブ太平洋クルージングでも存分に楽しめるからである。大型客船は6階に大きなスペースを割いてカジノを設けていた。バカラブラックジャックポーカーレット・イット・ライドなどのカードゲーム、それにクラップスビンゴルーレットスロットルマシーンなど何でも楽しめる。


カジノ2  


 カジノの雰囲気とは不思議で、そのすべてをやってみたくなる。だが、残念なことにルール、つまり遊び方を熟知していないので、いつも比較的気軽に出来るブラックジャックのテーブルに着く。カードゲームのテーブルはみんなランク別、つまり10ドル以上、50ドル以上、100ドル以上といった具合に分けてある。10ドル~500ドルのテーブルが私の遊び場である。ランクでは一番低いテーブルだ。




 テーブルはいずれも6,7人掛け。100ドル紙幣5枚をテーブルに出すとデーラーはまず紙幣をテーブルの上に並べて客の見ている前できちっと確認した後、それに見合ったチップを客の手元に出してくれる。カードの配り方を含めて、その手さばきは鮮やかだ。賭けるチップの量はリミットの範囲内であれば自由。客はカードの流れを見ながらチップの量、つまり賭ける金額を加減するのである。ブラックジャックは日本のオイチョカブとやり方は同じ。ただカードと花札の違い、それに上限の勝負数字が21と9の違いである。オイチョカブを知っていれば遊べるゲームだ。


カジノ


 オイチョカブも同じだが、デーラー(親)が強いに決まっている。お客の方は勝負勘とツキ以外のなにものでもない。結局は負けてしまうのだが、≪好き≫≪欲≫が後を追わせる。いつも女房が嫌がるのも無理はない。でもギャンブルとはそんなものだ。




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クルージングの魅力

クルージング


 凝っているといったら、ちょっと大げさだが、今、クルージングにはまっている。3年前のハワイ諸島めぐり、昨年のアラスカクルージングに次いで、今度はマイアミからロス・アンゼルスまでの旅を女房と一緒に楽しむことにしたのだ。前2回は8日間だったが、今回は15日間である。クルージングは豪華客船の旅ということもさることながら、毎たび、ホテルを変えずに旅行を楽しむことが出来るのがいい。




 陸の旅だとバスや汽車で移動し,その行く先々でホテルを変え,あの重いトランクを持ち運ばなければならない。それに比べ船の旅だと、そのわずらわしさがない。しかもお客が眠っている夜の時間に目的地まで移動してくれる。決まった船室が旅の期間中のホテルであり、行動拠点である。面倒がり屋にはこんな好都合はない。


部屋


 船はざっと20万トン。収容人員は乗客数2,500人。それに1,000人の乗務員が乗り組んでいるのだそうだ。14階建ての船には3箇所のエレベーターホールがあって、それぞれ6基のエレベーターが稼動している。船の全長は300メートル近い。いってみれば、どでかいホテルが海に浮かび、太平洋を動いていると考えればいい。その大きさゆえか、少しもゆれないから快適だ。船酔いなどの心配は全くない。
船


 船の中には大小13のレストランをはじめ,1,500から1,600人収容できるシアターやボーリング場、大人も子供も一緒に楽しめるゲームコーナー、インターネットルームや静かに本を楽しめる読書室、子供専用の遊戯室や大人の遊技場・カジノもある。普通のホテルではロビーに当たる部分は7階にあって、8階まで吹き抜けになっているこの空間には、大小の豪華なソファーがアトランダムに並び、お客同士の待ち合わせや団欒の場となる。

船の中

 また様々な問い合わせに応ずる案内カウンターやドリンクコーナー、それに大型のスクリーンを見たり、歌や楽器のライブを楽しめるようゆったりした空間を演出している。夜のひと時ともなると、臨時の写真スタジオがお目見えして、気軽に記念写真を撮ってくれる。若者たちのグループや老若を問わず、カップルたちがお気に入りのコスチュームに着替えてやってくる。どの顔もみんな楽しそうだ。
ボーリング


 このロビーがある7階は主にシアターや読書室などの娯楽施設、それに大衆レストランなどがある。長い通路の両側にはバックや香水、時計、めがね、ネクタイ、男性、女性用の衣類など各種のブランド店やお土産品店が並んでいる。その通路の一角では、臨時のスタジオばかりではなく、レストランやロビーなどでプロのカメラマンが撮ったお客さんの写真が翌日には展示される。沢山のアングルの中からお気に入りの写真だけをチョイス出来る仕組みだ。


クルーズ3



 屋上には大小のプールがあって、家族連れや若者たちが水しぶきを上げている。ちょっと気温が下がる日には温水に代わる。プールサイドには沢山のビーチチェアが置かれ、人々はサングラスをして日光浴を楽しんだり、透けるような青空の下で読書を楽しんでいた。ドリンクコーナーもある。


ジム




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理念の証

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 お訪ねした会社のホール正面に設えられた神棚の脇には創業者の写真と「南洲」の書が。「南洲」はご存知、西郷隆盛の号。その掲額の文字は「敬天愛人」。天、つまり自然が織りなす道理を敬い、人を大事にする、と言うのだ。この会社の社是を南洲の四文字の書になぞらえたのかも知れない。写真の創業者は「初心を忘れるな」と説いているのだろう。




 ホールは椅子を並べても100人以上が入れる大きさ。社員の食堂であったり、朝礼や幹部の打ち合わせなどにも頻繁に使うはず。神棚の脇の創業者の写真と南洲の書は、そこに集う人たちに、「かくあるべし」と、いつも《無言の言葉》を投げかけているに違いない。




 会社は笛吹市にあって、精密プレス金型や治工具設計と制作、それに精密プレス部品の加工。分かり易く言えば、電子機器部品や、パソコンなどOA機器の部品、自動車の精密部品を作っている。広いスペースの工場の中に入ってみると、作業しているのは、みんなロボット。要所、要所にいる従業員は、そのロボットの管理者。設計陣も含めて、わずか65人の若い技術者であった。平均年齢は約30歳。タイにも同じような会社(合弁)を持っていて、こちらの従業員数は約800人。管理者の人材交流も積極的に行うという。


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 ロールに巻かれた薄い金属の帯がいくつものロボットによってプレスされ、面白いように、それぞれの金型に変身してゆく。生産工程のロボット化など会社の近代化を図ったのは二代目社長。創業者の娘婿で、鹿児島県出身・薩摩隼人である。次男に山梨の会社を、長男にタイの会社をまかせて、会長職に収まった。義父である創業者を敬い、南洲こと西郷隆盛の書「敬天愛人」を持ち込んだのも、そんな二代目社長(現会長)の理念の証である。山梨と西郷のご縁の始まりでもある。


  来年のNHK大河ドラマは西郷隆盛をテーマにした「西郷(せご)どん」。原作は山梨市出身の直木賞作家・林真理子。山梨と鹿児島。偶然とはいえ不思議なご縁を見た思いがした。脚本は中園ミホ、「西郷(せご)どん」は鈴木亮平が演ずるという。来年の大河ドラマのが楽しみにもなる。物事の出会いとは面白い。


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 この会社を訪問させていただいたのは、山梨ロータリークラブの日常例会の一環。RI・国際ロータリーのキーワードは「職業」。生業(なりわい)を異にして集まった仲間たちが、職業を通じて少しでも社会に貢献しよう、というものだ。職場訪問は仲間たちの職業を理解する最も手っ取り早い手段なのである。




 山梨ロータリークラブには、クラブ運営を管理するクラブ管理運営委員会など5つの委員会があって、その一つが今回の職場訪問を企画した奉仕プロジェクト委員会だ。クラブでは毎年、この会社訪問をやっていて、最近では社会福祉施設を手広く運営するメンバーや、高度な医療機器を備え、山梨市を中心とした広い地域の第二次医療を担うメンバーの総合病院も。院長・理事長として指揮する医療現場の最前線を見せていただいた。




 オーナー経営者は、私のようなサラリーマン経営、しかもリタイアして、百姓もどきの生活をしている人間と違って、毎日、さまざまな荒波にさらされている。今度の企業訪問で垣間見た「敬天愛人」は、そんな《お気楽》な私にも当てはまる《言葉》であった。「他山の石」として拝見させていただいた。




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とりつかれた海の魅力

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 ハワイから空路、フロリダ州のマイアミに飛んだ。太平洋に浮かぶハワイ諸島の中心、オハフのホノルル。マイアミは成田からホノルルより、ずっと遠い。マイアミからロス・アンゼルスまでのクルーズが目的だから、文句も言えないが、その飛行時間の長さにはうんざりする。




 ファーストクラスとまでもいかないまでも、せめてビジネスクラスのチケットを取ればいいのだが、そこが・・・。財布と相談すれば我慢、我慢。少しぐらい窮屈だって・・・。貧乏人は我慢することを知っている。そこで考えることはただ一つ。飲ん兵衛の飲ん兵衛たる所以。飲みながらシートにセットされたゲームでも楽しむに限る。





 アメリカの航空会社だから、いくら自分が日本酒党といえども、そんな訳にもいかないことくらい分かっているので、ビールで我慢だ。ところがだ。日本航空や全日空など日本の航空会社なら「銘柄は? キリンですか? それともアサヒ? サントリー?・・・」とやってくれる。当然のことながら、そんなビールを用意して置いてくれるはずがない。


ビール


 仕方なく、比較的、馴染み深いバドワイザーを注文するのだが、これがまた・・・。やっぱり、ピーンとこない。それどころか、なんとなく損をしたような気分になるのは、ビールに限らず、全てが有料だ。「JALやANAだったら飲み放題なのに・・・」と、また貧乏人根性が頭をもたげるのである。「いっそのこと、飲んじまえ・・・」と、開き直って、今度はスコッチ。


スコッチ  


 その辺の理屈はよく分からないが、気圧の関係もあるのだろう。飲めば飲むほどに気持ちはご機嫌に。そこで、いつものように飛び出すのが隣にいる女房のきついブレーキだ。「お父さん、いい加減にしたら・・・」。いつものことだが、そんなことでへこたれる俺じゃあない。しかも、シートは満杯。隣の人達に気遣ってか、女房のブレーキのトーンも、心なしか低い。それをよいことに、また・・・。




 しかし、人間、それぞれに上戸というヤツがあって、人に止められなくっても、やめる時はやめるのだ。女というヤツはバカだなあ~などと思っているうちに、いつもの睡魔が・・・。どのくらい眠ったのか分からないのだが、目が覚めて窓の外を眺めたら、まだアメリカ大陸の上を飛んでいた。




 アメリカはでっかい。数年前、カジノが目的で、ロス・アンゼルスからラスベカスに飛んだことがある。地図で見れば目と鼻の先だが、下界に広がる景色は行けども行けども茶色い荒野。その、全く所々に住宅の屋根や牧場がポツン、ポツンとが見える。




 60数年前、この国と戦争をしたのかと思うと・・・。ラスベカスひとつとってもそうだ。一本の木も草も、さらには一滴の水もない砂漠のど真ん中に、アメリカ人は、あの大きな町を造ってしまったのだ。町というより都市といった方がいい。人間が住む町を造る基本は水。その水は100㌔も先から引いたというのだ。アメリカ人の開拓魂はすごい。そんな事を考えているうちにマイアミへ。世界のリゾート地だ。


マイアミ上空



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ハマルということ

 人間、その年齢や環境で、ハマル事のひとつやふたつあるものだ。プラモデルであったり、切手など趣味の収集であったりする。競馬やマージャン、パチンコ、カジノ遊びなどギャンブルだってある。釣りやカメラだってあるだろう。人、それぞれさまざまだ。


テニス   色鉛筆

 私の場合、なんと言ってもパソコン。今度の外国旅行を兼ねたクルージングもそうだ。こちらはお金と時間がかかるから、そう度々という訳にはいかない。ところが、今度ばかりはパソコンとクルージングがブッキングしてしまった。


PC     クルージング


 えっ、何の事?と、お思いだろうが、実はこうだ。15日間のカリブー太平洋クルーズをはさんで一ヵ月近いアメリカ旅行を計画したものの、ブログの更新も休みたくない。ずっと定期的に更新してきた。


富士の山ちゃん


 ハマルという事は恐ろしいもので、自分でも信じられないほどのエネルギーを発揮する。いつもならだらだら飲んで、女房から嫌がられた晩酌も適当に切り上げるし、マージャンや仲間との無尽会で飲んで午前様で帰っても、必ず、一度はパソコンの前に座る。「お父さんのおもちゃ、いつまで続くかな?」。女房から「いつかは飽きる」と見られ、半ば笑われたって何のそのだ。そんなブログだから、一ヵ月近くも更新を休むわけにもいかない。




 「そんなの簡単じゃない。パソコンを持って行って、そこで更新すればいいじゃない」



 その通りだ。いくらアナログ人間でも、そのくらいの事は考えた。インターネットだから地球上のどこからだって、その施設があれば接続できるに決まっている。問題は接続の仕方と、派生する経費である。ITには詳しい知人に聞いたり、調べてもらったりした。ハワイにお住まいのブログ仲間「マダムさん」にもお知恵をお借りした。

ハワイ


 結果はそんなに難しいことではなかった。今度行くところには日本語バージョンのパソコンがなさそうだから、端末をこちらから持って行けばいい。その場合も、船の客室やインターネットルームにも接続口があって、そのパーツもアダプターなどを使用しなくても、そのまま使えるらしい。ウイルス対策はちょっと微妙だが、まず問題はなさそうだ。




 ところが、私にとって最大の問題は、それに伴う経費。100分で55ドル、200分だと100ドル。私のような新米が、そんなに流暢にパソコンを叩き、ブログの更新が出来るわけがないから、時間は100分ばかりでは済まないに決まっている。更新を毎日しなくても、その間、お訪ねいただくエディタの友達への返事などを書かないといけないから、インターネットの使用料は平均しても一日5,000円では済まない勘定だ。




 そこが貧乏人の貧乏人たる所以。5,000円 × 約1ヵ月。とても出来る相談なんかじゃあない。昨年、アラスカクルーズに行った時、その出港、帰港の拠点となったシアトルでは、どこのホテルも只。さすがはマイクロソフト社のビル・ゲイツのおひざ元だけはある。世界一の大金持ちが神様に見えた。とにかく日本語バージョンでないと・・。持って行くことに超したことがないのだろう。






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初夏への移ろい

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  「お父さん、もう、掛け布団を薄くしましょうか。冬の布団では、暑いんじゃあないかしら…」


  「バカ言え。まだ4月だぞ…」


 そんな、どっちでもいい夫婦の会話をよそに、このところの気温は暑かったり、寒かったり。「掛け布団を…」。女房が、こんなことを言うのも無理はない。茶の間のテレビが伝える、この日の気温は6月初旬並みだと言う。そうかと言って、そんな気温がずっと続くわけではない。「三寒四温」とはよく言ったものだ。




 こうしてパソコンを叩きながら窓の外に目をやると,丸裸だった庭の落葉樹も、いつの間にか芽吹いて、初夏への序奏を印象付けている。何種類もある楓は、あるものは緑色に、あるものは赤く。黄色く芽吹くものもある。芽吹く色が何であれ、その色はどれも淡く、弱弱しい。柔らかい、と言った方がいいかも知れない。桜は日に日に散って葉桜に変身、一足先行している紅梅や白梅は、よく見ると青く、小さな実を結び始めた。

梅 全体  


 地面では水仙が黄色く、チューリップが真っ赤な花を付け、中には《この世》の峠を越したものもある。赤やピンクの椿の花も周りで芽吹く落葉樹の緑にアクセントを添える。植え込みと畑の境には除草の際、取り残したタンポポの花が。その近くでは、何というのか名前は分からないが、白く、小さな可憐な花が周囲に風情を添えている。




 かつての日本タンポポは、すっかり姿を消して、いずれも西洋タンポポ。見るからに逞しく、花が散る頃になると、羽毛のような白い、無数の種を風に飛ばす。私達百姓にとっては、それをロマンチックと捉えられない《シロモノ》繁殖力も凄い。。野にあるタンポポもみんな西洋タンポポに変わった。《首》の短い日本タンポポは駆逐されてしまったのだ。




 目を植え込みの向こうに向けると、富士山も心なしか雪化粧を薄くした。前衛の御坂山塊の稜線にポッカリ浮かぶ富士の容姿は、いつ見てもいい。この時季、雪解けはジワジワと進み、「農鳥」が《姿》を見せる日も近い。「農鳥」は富士山の雪解けがもたらす自然現象。周りの雪が消え、残った雪が「鳥」の形で浮かび上がる時季があるのだ。古来農家は、この自然現象を《合図》と捉え、農作業を始めたことから、いつしか「農鳥」と呼ぶようになった。

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 古来、初夏の農作業と言えば、米作りだったのだろう。しかし、この辺りでは、すっかり、と言っていいほど水田は消え、ブドウや桃、スモモ、所によってはサクランボ、つまり果樹地帯に変わった。だから「農鳥」は農家の《羅針盤》としての役割を薄くしているが、人々に初夏を告げる風物詩であることは間違いない。




 果樹農家は桃やスモモの人工授粉に精を出し、良質の果実の収穫に思いをはせる。冬の間、重油を焚いて丹精込めたハウスサクランボは市場に顔を見せ、一足早く初夏の味と香りをお届けしている。庶民と言っては失礼だが、そうそうみんなの口に入らないお値段だろう。


サクランボ


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ピンクのじゅうたん

桃  


 「山梨の人間はバカだねえ・・・」


 「先生、どうして山梨の人はバカなんですか」


 「バカなんだよ」


 「だからどうして・・・」


 「だって、そうだろう。山梨の桃の花はすごい。わたしゃあ、電車で甲府に来たんだが、勝沼駅から塩山駅にかけて見渡す甲府盆地の桃の花は素晴らしい。あれを山梨県のヤツらは、世に出すことも、ましてや活用することすらしねえ・・・」


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一宮町観光協会



 その人はツボのような丸い目をむき出すようにしながら、まるで掃き捨てるように言った。その語り口調はドスが利いていて、声はかすれている。ご存知の方は、そのイメージからお分かりになるかもしれない。そう、今は故人となられた岡本太郎画伯だ。大阪万博の、あのシンボルモニュメント「太陽の塔」の作者としてもおなじみ。その作風からピカソを連想する方も多いだろう。

岡本太郎



 もう30年以上も前のことだ。甲府で岡本画伯にお目にかかってインタビューさせて頂いたことがある。お話をお伺いする前、その生い立ちをちょっと調べさせて頂いた。その記憶によると、芸術一家に生まれた岡本さんは、子供の頃は名うてのやんちゃ坊主で、小学校を度々、転校させられた。ところが絵を描かせれば何を描いても上手で、18歳の時、東京美術学校(現東京藝術大学)に入り、その後、一家でフランスに渡るのである。




 岡本青年は、家族が日本に帰った後もパリに残って絵を勉強、そこで出会ったピカソの絵に心酔して、抽象画に傾倒していくのである。原色を使ったあの力強い抽象画を見て誰もがピカソを連想するわけはそこにあるのだ。大阪万博は当時、圧倒的な人気を集め、その入場者総数は6,400万人を数えた。日本人の二人に一人が万博を見た勘定だ。そのシンボルとなった「太陽の塔」の制作費は30億円とも言われた。




 なんとなくピカソを連想しながら向き合っていた私は、この岡本画伯のお話に、頭をガツ~ンと、ぶん殴られたような気がしたのを今でも鮮明に覚えている。なぜって? 今でこそ桃の花をいけばな用に市場化したり、桃の花見の場を設営して観光客を誘致するようになったが、当時、桃作り農家も農協など全ての周囲は、いわば「いい桃の実を作ってなんぼなんぼ」という考えに過ぎなかったのだ。岡本さんが言うように、あの見事な桃の花をビジネスに使うことなど考えなかったのである。


桃2_convert_20110412202905



 いくら素晴らしい花が咲こうと、その中にいれば、当たり前のことで、その素晴らしさに気づかない。岡本さんが言う桃の花に限らず、そこにいる人たちが空気のように誰も気づかず、見過ごしていることって案外多いのかもしれない。色から来る景色を見ての感性、それが芸術ばかりはではなく、ビジネスチャンスにも繋がることを思い知らされた。岡本画伯の感性はひとつキャンパスの上だけではなかった。事実、あの30数年前の乱暴とも思える発言が、やがて農家も周囲も山梨の桃の花に対する視点を変えるきっかけになったことは確かだ。




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摩訶不思議な桜

桜2


 どちらにお住まいかは存じ上げないが、テンテンさんからこんなコメントを頂いた。
「たかが花見、されど花見ですね。この風習が続く限り、日本の自然は美しく残されていくのだと信じています」



 このコメントに私もこうお返事させていただいた。


 「そう言われれば、その通りですね。日本人に花見の習慣がある限り、花を愛で、自然を大切にする心が育まれていくのでしょうね。私のような花をおかずにする飲ん兵衛も一役買っている?のですね」




 飲ん兵衛の一役は、もちろん冗談。とにかく、という花は不思議な魔力を持っていて、人々に春を実感させ、人の心をウキウキさせるのだ。100年に一度の不況だの、なんだのといっても、日本全国、至る所の桜の名所は、今年も花見客で賑わった。当然のことのように、私のような酔客も。

桜



 毎年、2月から3月になると新聞、テレビ、ラジオは競うように日本列島の桜前線を予想し、各地の地方気象台も、それぞれが持つ標準木と首っ丈で、役にかかって開花宣言を発表する。そこには、平年比、前年比で何日早いの、遅いのまで解説するのだ。人々はそれによって気候や気温の移り変わりを実感したり、農村地帯や果樹地帯では、その作業の目安にさえするのである。




 梅の花からバトンタッチする水仙や、後に花開く桃の花、さらには西洋など外来種の草花もあわせ、一斉に花を開かせる。いわゆる春爛漫を演出する自然界にあってはその象徴的な存在なのだ。山梨、特に私が住む甲府盆地の東部は、日本一の桃の産地。間もなくすると桃の花が満開となって、一帯がピンクのじゅうたんに変わる。しかし、このスケールの大きいピンクのじゅうたんも、やっぱり花としては桜には位負けだ。




 日本人は、なんと言っても桜が大好き。だから映画や舞台にも桜を登場させる。今は全体的に少なくなったが、時代劇、つまりチャンバラ映画には桜がつき物だった。あの遠山の金さんにいたっては、背中から二の腕に掛けての刺青は桜吹雪。北町奉行所のお白州で片方の裃をはずして「手前ら、とぼけるのもいい加減にしろい・・」と二の腕に掛けての桜吹雪を見せながら啖呵を切ると観客は拍手喝さい。いわば最後の見せ場となるのだ。



桜4


 子供たちの学生服のボタンや小学校の校章も、かつては桜をあしらったものが多かった。外国人から見た日本の象徴は、今でもフジヤマ芸者と並んで、やっぱり桜。日本人に桜を重ね合わせるのである。昨年、アメリカのシアトルに行ったとき、ワシントン大学を訪ねたら三木首相時代に日本が贈ったという桜並木が、その構内で幹を太くし、立派に息づいていた。ワシントン州での日米友好の証なのだ。




 桜は全ての花に比類がないほど、散り際がいい。日本人のDNAにある「侍」にも似た共通点がどこかで人の心をくすぐるのだろう。しかも、散った後も「葉桜」という言葉があって、まだ桜が生きているのである。花は散れば終わりだが、なぜか桜だけは違うのだ。


桜3




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墓所の風景

墓


 その人が建立した墓所甲府盆地を一望でき、その向こうに富士山の雄姿が望める湯村山の中腹にあった。春といっても頬をなぜる風はまだ冷たい。なにしろ小高い山の中腹だし、そこから見渡す見事な眺望のせいもあってか、その風は一層爽やかだ。墓所建立の竣工法要に参列した人達が誰ともなく「いい所ですねえ」と、つぶやいた。




 もう60年以上も前、富士山麓に程近い御坂山塊の麓の片田舎から、山梨県の県都・甲府に出てきて運輸業を興した。この人の手腕、力量がモノをいって、会社は着実に業績を伸ばす一方、人柄、人望が手伝って、次第に山梨県経済界の重鎮としての座を不動なものにした。80歳になったのを機に県内の中小企業を束ねる経済団体の会長職を退き、後進に道を譲った。



風紀2


 自らの人生に、ひとつの区切りをつけたのだろう。墓所建立の法要を済ましての、おときの席で、大勢の来賓を前に「やっと念願が叶ってホッとした」と、自らの80年の来し方を振り返った。その顔は経済界の重鎮でも、企業を率いる会長の顔でもなかった。一人の年老いた柔らかな人間の顔に戻っていた。




 「建設中も大勢の人が見に来てくれたんですよ」と、控えめながらもこの人が言うように、墓所は掛け値なしの立派なもの。広く囲んだ玉垣の中には中央に大きないしぶみと、その両側に石塔が。左側の石塔にはこの人の戒名が、やはり健在の奥様のものと並んで刻まれている。もちろん、お二人の戒名の一字は紅。「慶徳院和山宗睦大居士」。戒名の一字「大」がこの人を誰にも分かるように物語っている。


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 中央のいしぶみには大きな文字で「順考」の二文字が刻まれている。墓所建立法要のあとの、おときの席で、この「孝順」を揮毫した臨済宗向岳寺派の管長と、墓所建立の施主であるこの人は、それぞれの立場で、この言葉の奥深い意味を説いた。いつの世にあっても普遍な親や先祖への敬い、感謝、畏敬の念・・・。みんなが頷いた。


孝順


 管長は、挨拶の中で、こんなことも話した。

 「最近の風潮として≪個≫を重んずるあまりに人と人との絆がどんどん弱くなっている。例えば、一番小さな社会である家庭を見ても≪個≫を優先し、親子や家族の絆が希薄になって、そこから家庭内暴力など、さまざまな問題を露呈している」




 そんな僧侶のお話を拝聴しながら「確かに」と頷いた人は多かっただろう。≪個≫を尊重することは決して悪くない。しかし、それが一人歩きすると「自己虫」がどんどん増える。身近な日常でも度々出っくわす「自己虫」。これからの日本は、いったい・・・。




 ところで戒名。この人のそれに、さりげなくというか、重々しくついている「大」の一文字には大きな意味がある。この人の人となりを見事に表しているのだ。社会への貢献もさることながら、広い意味での先祖を敬い、お寺、宗門への貢献度がその基調になっているのだ。権力の象徴でも、ましてやお金でもない。その人がどう生きたかにほかならない。霊園の大小を問わず「大」とか「殿」の文字がつく戒名は少ない。





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知らぬは亭主ばかりなり

スパゲティ    サラダ    ピザ   


 昼間、有名ホテルのバイキングコーナーを覗けば、ほとんどと言っていいほどお客さんは女性。オバサン達だ。旅行先でも、映画館でも、観劇コンサートホールでも見かけるのは圧倒的に女性。年末の恒例となった「第九」。山梨県甲府市にある県立の県民文化ホールで開かれるコンサートを聴きに行ってもお客の8割方は女性である。数少ない男達は、かみさんの運転手代わりだったり、いわばエスコート役? 「第九」は別だが、そういう私だって義理。行きたくて行っているのではないし、そもそもクラッシック音楽など理解する能力なんか持ち合わせていないのだから、居眠りでもするのがオチ。



指揮


 そんなレベルの人間の僻み(ひがみ)だろうか、オバサンと言っては失礼だが、どの顔もみんな生き生きとしている。レストランやホテルでは楽しそうに料理と向き合う。そこでの話は決まって文化的。ファッションや観劇などの話題だ。中高年に対して口が悪い、あの漫談家・綾小路きみまろなら、どんな言葉で、このご婦人たちを捉え、表現するのだろうか。世の中、100年に一度の不景気などといっているが、そんな暗さは微塵もない。





 旅先、特に外国旅行でも、やっぱり日本からの客は女性、オバサングループが幅を利かす。寄り合い所帯のツアーバスの座席を見渡せば、いつも男性は少数派。男、女を問わず、日本人と欧米人の旅行の仕方はまるで違う。集団といったら品がないが、日本人の多くがグループで旅行しているのに対して、欧米人は夫婦連れ。若い人というより、勤めをリタイアした後、のんびり旅行を楽しむといったタイプだ。傍から見て「日本人は金持ち」に見えるのも無理もない。これから春先に向けて「卒業旅行」と言う名のギャルも増える。


旅行


 あっちこっちにお目見えする高級エステはどこも大繁盛。昼間のエアロビックススポーツジムは、お腹や腰に脂肪を貯めたご婦人たちでいっぱいだ。ここでも若いインストラクターを相手にハッスル、ハッスル。息を切らしながら着いて行くのがやっとの、わずかに混じるオジサンたちを尻目に次々とメニューをこなして行くのである。

エクササイズ


 一方、そんな頃、サラリーマンのご亭主たちは職場という戦場で仕事、仕事。昼飯時ともなれば、ホテルのバイキングコーナーならぬ街の定食屋へ。ある統計によれば、サラリーマンの昼食代は、平均では500円に満たないという。値下げ値下げで顧客を集める牛丼チェーン店が、そんなオトウサン達の人気を集めるのだ。毎月のお小遣い? わずかに数千円というサラリーマン氏も珍しくない。

牛丼


 今に始まった事ではないが、世の奥様方に時間を与えたのは家庭の電化。洗濯機や掃除機、電子炊飯器は大きくゆとりを生み出したのである。一方で経済的なゆとりから≪セレブ≫などという言葉も何事もないように使われるようになった。会社を定年退職して田舎で百姓の真似事をしながら暮らす貧乏亭主。昼間の無尽会帰りに我が家に立ち寄った女房の仲間たちの話を聞いていたら「今日のホテルのバイキング、美味しかったわねえ・・」。我が女房もそんな所に。そればかりではない。知らぬ間に健康ジムや手芸など趣味の講座にも。私の場合、今だから見えるが、女房族の行動、知らぬは亭主ばかりなりか・・・。




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子供は育てるもの?育つもの?

親子2

 育児。良くも悪くも人間、そんな時代が華かもしれない。石和温泉郷にあるリハビリテーション病院でムチウチ症のマッサージ治療(PT=理学療法)を受けながら交わした若い理学療法士さんとの会話の一方で、そんなことをつくづく感じた。この若いお父さんのように育児で悩み、やがてまた教育投資も含めた子育てで苦労もする。考えてみれば誰もが大なり、小なり通らなければならない道かもしれない。




 私にも一人娘がいる。もう30も半ばを過ぎた。振り返ってみれば、育児などと難しい事を考えたことは一度もなかった。仕事、仕事で追われ、子供のこと、つまり育児のことなど女房にまかせっきりだった。もちろん、可愛い我が娘のこと、そのやり方を巡って女房と喧嘩をしたことがなかったわけではない。

親子


 育児を女房にまかせっきりだったからと言うわけではないが≪子供は育てるものではなく、育つもの≫だと、今でも思っている。女房と育児を巡る喧嘩があったとすれば、「過保護にするな」の一点ぐらい。過保護に育てたら、やがてそのツケを背負わされるのは、子供自身だと思っているからだ。「年寄りっ子は三文安」。昔の人はうまい事を言ったものだ。その時の感情で孫を気ままに可愛がり、あとは野となれ山となれ、そのツケは孫に行くの例えである。私にはたまたま娘一人しかいないが、私達の世代では自らの子供は2~3人が普通。私の兄弟は4人。おふくろの兄弟も親父の兄弟も9人。だんだん子供の数は減っている。3世代で世代が変わる度に半減している勘定で、今では一人っ子は当たり前。統計で見てもわが国の出生率は1・25人ぐらいだからそれを裏付けている。

赤ちゃん


 昔の親は偉かった。4人、5人、8人、9人を平気で育てたのである。自分の場合を例にしても、私は戦中生まれ、姉は戦前。弟二人は戦後間もない頃の生まれ。経済的にも最も貧しい頃だった。食べることにも事欠いた。物がなく、小学校時代、配給物資をくじ引きで分け合ったこともある。食生活が貧しいから栄養失調の子供も。私もどちらかと言えば、その一人だった。肥満が溢れ、栄養失調という言葉が死語になった今とは大違い。




 そんな兄弟も立派にとはいかないまでも世間様にご迷惑をかけない程度の大人に育った。男3人だから兄弟喧嘩もした。わんぱくもした。その度に親父から怒られ、ゲンコツを食った。日常茶飯事だった。そんな親父は怖かった。学校に行けば先生から、これまたゲンコツ。それを家に帰って話そうものなら「お前が悪いからだ」と、またゲンコツだ。いたずらをして近所のオヤジから怒られることも珍しくはなかった。みんなが、みんなで子供を戒め、見守った。


男の子


 「ヘタに叱って性格が歪んだら・・・」。若い理学療法士のお父さんや、その奥さんが言うような迷いや心配は誰もしなかった。むしろ、そんな親父や先生、近所のオヤジのやり方がわかり易かった。今、国では子供手当て云々の論議をしている。もちろんあった方がいいに決まっている。でも、これだって、みんなの税金。裏を返せば借金の先食いだ。親に対する≪過保護≫にもみえる。むしろ、貧しいながらも何人もの子供を育てた昔の親達に、その根性を学びたい。子供手当ては、本当に政治家先生が言う少子化対策になるのか・・。




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若いお父さんと育児

 「うちの息子は5歳。その息子が最近、ウソを言ったり、言うことを聞かなくなって困るんです。我が家ではその育児を巡って毎日、夫婦喧嘩です。女房は『あなたがちゃんと教えないからですよ。このままだとこの子、大人になったら大嘘つきになってしまう』と私に責任を転嫁するし・・・。正直言って僕にはどうしたらいいか分からないんです」

男の子

 つまらぬことからムチウチ症を患っている私は、今も二日おきのペースで石和温泉郷にあるリハビリテーション病院に通っている。週に一度のハリ治療もあるが、主には首の牽引とPT(理学療法)OT(作業療法)と呼ばれるマッサージ治療をするためだ。このリハビリ治療はもう2ヶ月近くになるから、担当の理学療法士さんとも顔なじみ。お互いに気心も通じ合うのだ。マッサージをしてもらいながら、たわいもなく色々なことを話す。


リハビリ室


 育児の悩みを打ち明けたのは、年恰好から30歳過ぎて間もないくらいの若い理学療法士さん。私はうつ伏せになっているから、その表情こそ分からないが、育児の悩みは真に迫っていた。イケメンであるばかりか、いかにも真面目そうな青年で、そんな育児の悩みがなければ、可愛い子供を囲む美男、美女の仲睦ましいカップルであることが容易に想像できる。

男の子2

 この若者の打ち明け話とも、相談ともつかない話はさらに続く。



 「いう事を聴かないこともさることながら、平気でウソを言うのが心配。女房は『あまり怒ったら性格が歪む』と言って、手をこまねいているし、僕だってどうしたらいいか分からないんです」





 「その子は一人っ子ですか?」


 「そうです。始から一人の計画ですが、そうでなくても、こんなに難しいものなら、とてもこれ以上は無理ですよ。経済的にゆとりもありませんしねえ・・・」



 「経済的なゆとり?」



 「僕たちのような安給料じゃあ、二人、三人の子供なんか育てることは出来ませんよ」



 「安給料なんて、当たり前じゃあないの。何時の時代だって、あなたのようなお若い方々の給料なんて沢山くれるはずはありませんよ。経済的なゆとりはともかくとして、子供が悪いことをしたり、ウソを言ったら叱るのが当たり前。私はあなたより少しばかり歳を取っているからと言って、お説教じみて言うわけじゃあないけど、親が叱らなかったら子供はどうするんです」




 「でも、どう叱ったらいいか・・・」



 「あなたが感じたままを子供さんに伝えればいいんですよ。あんまり考えちまったらダメなんだよねえ。そのまま叱ればいいんじゃあないの。大きな声を出さなければならないこともあるし、時にはゲンコツだって・・。子供さんには、その意味が必ず伝わりますよ


 親子

 話を聞いたら、この理学療法士さんも一人っ子だという。いい子で叱られたことなどなかったのだろう。この若いお父さんの育児の悩み、今の世の中、どうやら特異なケースではなさそう。





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孫娘とチャンネル争い

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 いい歳をして、お恥ずかしい話だが、孫娘とテレビのチャンネル争いをする。孫娘は間もなく4歳。どこの子供も同じだろうが、アニメやおとぎ話、むかし話が大好きで、茶の間のテレビを食い入るように見ている。親馬鹿チャンリンならぬ、婆馬鹿チャンリン。女房は、孫可愛さに、ことある度に孫が喜びそうな幼児番組を録画しておくのだ。




 爺の私は「相棒」など好きなドラマやクイズ番組くらいで、普段、そんなにテレビを見る方ではないが、家にいる時は昼と夕方のニュースは必ず見る。そんな時に限って孫娘と≪バッティング≫するのである。


プリンセス


 甲府にいる孫娘は、週に一度は親に連れられて山梨市の我が家にやって来る。田舎家だから家の間取りも広いし、庭や、その周りも広い。飛び回って遊ぶことには事欠かない。でも昼と夕方の食事時は居間に。お恥ずかしい孫娘とのチャンネル争いは、主には、この時。




 「お爺ちゃんがニュースを見るんだからね」


 この時ばかりは女房(婆)も応援してくれるのだが、≪敵≫もさるもの。「ダメ…」。絶対に譲らないのだ。食い入るように観ていたアニメなどのお気に入り番組を中途で遮られるのだから、考えてみれば怒るのも無理もない。




 茶の間であろうが、飲食店の店先であろうが、テレビは≪空気≫のような存在で、観ているとか観ていないに関係なく点いていることが多い。そんなテレビに普段、見向きもしない孫娘なのに、子供向けの番組が流れると、間髪を入れずに反応し、一人食い入るように見入るのである。


遠藤


 僅
か4歳足らずの子供だから、大人のような知恵がある訳はない。本能とも言える≪動物的≫な反応だろう。裏を返して、そんな番組やストーリーを組み立てる大人たちは凄い。子供たちの心理を読んで、≪虜≫にしてしまう。そんなアニメや童話作家に脱帽させられる。最近では、タブロイド端末にも興味を持って観ている。目を近づけて観るのが心配だ。




 テレビやタブロイド端末に限ったことではない。人の≪観方≫だって知っている。我が家にも様々な人が来る。ご近所の方もいれば、私や女房の友人・知人、親戚の人だっている。そんなお一人、お一人と孫娘を見ていると面白いことに気付く。私たち大人が見て、みんな同じなのに、ある人には直ぐになつき、すぐに心を許してハイタッチをしたり、抱っこまでしてもらっている。




 反対に敬遠とまではいかないまでも、それに近い行動をとる相手もいるのだ。私なんか、後者の方で、大人気なく、ちょっぴりガッカリしたり、僻みたくもなる。子供は血縁とか、他人とかの区別はなく本能的に、その人を見極めているのだ。




 多分、子供に好かれる大人に悪い人はいない。子供とは面白い≪動物≫である。孫娘がその《本能》から脱して、やがては色々のところに気遣いをする時も来るのだろう。自分が歳を取るのは実感しないが、子供は日に日に成長する。嬉しくもあり、寂しくもある。




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正直者のパソコン

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 アナログ人間が遅ボケのインターネットにハマって、パソコンを叩いているうちに、≪迷路≫に落ちて悪戦苦闘。お若い方々からは失笑を買うかも知れないが、そこから抜け出せずに立往生することもしばしばだ。それどころか、文章作りで何時も戸惑うのが「ず」と「づ」や、送り仮名が≪落ちる≫か≪落ちないか≫、つまり「つ」と「っ」、「ゆ」と「ゅ」などで「あれ?」を繰り返す始末。お目当ての漢字が出て来ないのだ。




 例えば「失敗」は「しゅっぱい」?「しつぱい」?「手術」は「しゅじつ」?「しゅじゅつ」?「しじゅつ」? 「続き」は「つづき」であることぐらいは分かる。「図案」は「ずあん」か「づあん」で、一瞬にしても迷ったりする。「決して」は「けして」とキーを叩いたら「消して」になってしまう。




 「オジサン、バカだね。小学校出たの?そんなことでモタモタしているんだ…」


 おっしゃる通り「バカ」と言われても仕方がないことを日常的に繰り返しているのである。手書き文字の場合、「失敗」も「手術」も考えなくても書けるが、パソコンの場合、平仮名の大文字、小文字をたった一つ間違えても、お目当ての文字を出してくれない。「そのくらい、前後の文脈から判断してくれても…」と言ってみたところでどうにもならない。


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 でもパソコンは人間の頭と違って一度覚えた(入力された)ことは、絶対に忘れないでいてくれる。人間の頭は、その年齢によって大小の差を伴うもののモノ事を忘れる。私なんか、このところ自分でもビックリするほどモノ忘れがひどい。助け船のように、うまいことを言ってくれた人がいた。




 「人間は、そもそもが≪忘れる動物≫なんですよ。考えてごらんなさいよ。いいことや楽しいことなら、いざ知らず、悪いことや気持ちが悪いことを何時までも覚えていたら、どうなります?きっとノイローゼになりますよ。忘れるからいいんです」




 その通りだろう。妙なところで頷いた。考えてみれば、人間の平均寿命は80歳とちょっと。いくら長生きしても100歳、110歳を超えることは容易いことではない。それと比べれば、コンピュータの電子回路は、比べ物にならないほど強く、恒久的と言ってもいい。むろん、完全とは言い切れないだろうが、回路の補強や取り換えによって再生、復帰もする。その面から考えれば、人間の脳など及びもつくまい。取り換えが出来ないからだ。




 アナログオジサンには、何となくの想像という次元の理解でしかないが、AI(人工知能)の開発、進歩は、これから、どんな社会をもたらし、人間の生活をどの様に変えて行くのだろうか。ロボットに人工知能を埋め込み、学習機能を持たせたら、少なくともオジサンのようなアナログ人間は≪用なし≫の存在になることは必定。




 ICTも含めた科学技術の進歩と深化は、私達アナログ人間にとっては、夢である一方で一抹の不安でも。面白半分、興味半分でパソコンを叩き、インターネットに向き合いながら柄にもないことを考えた。正直者で、融通の利かないパソコンと言う名のコンピュータは、オレ達・アナログ人間に何を教え、何処に導こうとしているのか…。




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おきてがみ
プロフィール

やまびこ

Author:やまびこ
 悠々自適とは行きませんが、職場を離れた後は農業見習いで頑張っています。傍ら、人権擁護委員の活動やロータリー、ユネスコの活動などボランティアも。農業は見習いとはいえ、なす、キュウリ、トマト、ジャガイモ、何でもOK。見よう見まね、植木の剪定も。でも高い所が怖くなりました。
 ブログは身近に見たもの、感じたものをエッセイ風に綴っています。

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