カブト虫(再)
横浜に住む知人夫婦がやって来た。手には虫籠を。中にはカブト虫がうようよ。50匹ぐらいが入っていた。立派な角を持ったものもいれば、角のないヤツもいる。真ん中に置かれた桃に群がり、競うように果汁を吸っている。
「こんなに沢山のカブト虫どこで採って来たの?」
「甲州市の塩山です。桃畑にいっぱいいるんですよ」
「へえ~・・・」
この二人、夫婦だから、もちろん子供ではない。二人とも40歳近くになるれっきとした大人である。ご主人がカブト虫大好きのようで、日曜日の未明、横浜の自宅を山梨に向けて車で出発。予め話をつけておいた桃畑に直行したという。未明の出発を試みたのは夏の行楽シーズン真っ只中。交通渋滞を避ける意味合いもあった。
「これだけ獲るのに、そんなに時間はかかりませんでしたよ」
「そんなに沢山いるの?」
「それがいるんです。木の下に落ちた果熟の桃に一匹、ニ匹と・・・。まるで桃に喰らいつくように、甘い汁を吸っているんです」
栽培農家は、農協―市場―小売店という流通ルートの所要時間を想定、果肉が硬い未熟のうちに出荷する。完熟してしまった桃は商品にならないのだ。傷物と一緒にジュース用に回されるか、畑に落ちて腐ってしまう運命なのである。カブト虫にとっては格好のご馳走ということになる。出荷期を控えた農家は大分前から消毒をしないので、カブト虫にとって身の危険もない。
カブト虫は、なにもお百姓さんに叱られないように落ちた不要の桃だけに群がるわけではない。これから商品になる桃にだって喰らいつく。農家にとっては招かざる邪魔者なのだ。「だから天敵駆除にも一役買っているわけ。農家の人たちも快く獲らせてくれました」。カブト虫少年ならぬカブト虫オジサンは真顔で話してくれた。
私たち田舎者にとってはカブト虫など珍しくも何でもない。畑に行けば一匹や二匹出遭ったし、植え込みにもいた。夏のこの時期、夜、窓を開けていれば茶の間の灯りに誘われ、蝉やカナブンブンと一緒に飛び込んでも来た。クーラーなんかない時代である。春先から初夏の時期、農業用の堆肥置き場をかき回すと「のけさ」と、この地方では呼んだカブト虫の幼虫がいっぱい出てきた。大人の親指ぐらいの太さをした白濁色で、いつも丸くなっているのだ。「これがカブト虫に?」。子供心に不思議でならなかった。
カブト虫やクワガタは、いつの世も子供たちの人気者。横浜からの知人のように大人だって惹きつけるのだ。デパートにはカブト虫コーナーがお目見えし、街角にもカブト虫ショップが。その多くはどこかで養殖しているのだろう。田舎の果樹園では生産性を向上させるための農薬が幅を利かす。当たり前にいたカブト虫は、そこから追いやられる運命なのだ。桃畑で獲れなくなるのも時間の問題だろう。
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