千玄室宗匠の話
千玄室大宗匠・裏千家HPより
人は何処まで矍鑠(かくしゃく)として生きることが出来るのか。茶道界の大御所・裏千家15代・前家元である千玄室大宗匠のお話しをお聞きしながら、そんなことを考えていた。所は神奈川県のJR鎌倉駅前にある鎌倉生涯学習センターホール。この日は神奈川、山梨、長野、静岡の4県で構成する中部東ブロックのユネスコ研究大会が開かれ、4県27のユネスコ協会の代表など約300人が階段式の会場を埋めていた。
大会のテーマは「文化の多様性と平和の文化―未来世代に残す地球に向けて」。ユネスコ親善大使をも務める千さんは「未来のために平和を考えよう」と題して基調講演した。プロフィールによれば、千さんは大正12年生まれというから御年91歳。京都で生まれ、同志社大法学部を卒業。ハワイ大学を経て韓国中央大学校博士課程を修了。哲学博士、文学博士。文化功労者国家顕彰、文化勲章…。国の内外で様々な勲章を受けている。
大会の開会セレモニーを会場の一番前の席で見守っていた千さんは、自分のプログラムになると駆け上がるようにステージの演壇へ。背筋をピーンと伸ばし、穏和の中にも精悍な顔つきの千さんは話し始めた。
和食がユネスコの世界無形文化遺産に登録されたことに触れ、一汁三菜をお茶、懐石の心に連動して説いた。茶道の家元に生まれながらも仏門で雲水として修行。座禅三昧の若き日のエピソードをユーモア混じりに話した。厳寒の12月初めの8日間の断食。空腹と寒さに震え、焚き火の中に投げ込んだ石ころを懐に入れて暖を採った。その暖かさ。「懐石の心はそんなところから生まれた」とも。一汁三菜。「味噌、醤油、塩。それが和食の味の原点だ」ともいい、懐石は「おもてなしの心」に他ならないことや、日本食が持つ多様性を広く世界にアピールして行く事の大切さを説いた。
91歳とはとても思えないほど若々しい、しかも歯切れのいい語り口調で講演はよどみなく展開して行く。「一盌(わん)からピースフルネスを」。千さんの茶道の理念である。
「千利休は信長や秀吉など、どんな権力者に対しても『和敬清寂』、つまり、みんな平等という考えを貫いた。だから茶室に入る時は刀を外し、丸腰で一盌のお茶を譲り合って飲む。戦国の時代だからこそ平等が人間の和を作ることを茶を通して教えたのだ。私が世界中に利休の心を広めることで、戦争や人間のおぞましい葛藤を少しでもなくせたら…」
千さんは自らを「特攻隊の生き残り」と言った。死と直面しながらも父親に持たされた茶箱セットで同じ特攻仲間と「戦中のお茶」を飲んだエピソードを紹介。「戦争は人間の傲慢。傲慢以上の傲慢だ」と力を込め、平和を希求することの大切さを訴えた。
前任のユネスコ親善大使は、今は故人となられた画家の平山郁夫さん。千さんは平山さんを「朋友」といい、「私が今、一番気にしているのは北朝鮮にある放置されたままの古代朝鮮の遺跡。その保護を訴えていた平山さんの遺志を継いで世界遺産登録へ力を注ぎたい」とも。千さんは1時間ちょっとの定められた講演をこなすと、すぐさま新幹線に乗り継いで京都に向かった。91歳のタフネスぶりに聴衆は舌を巻いた。(次回に続く)
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