珍味のうるか

鮎
 もう何年ぐらい前になるだろうか。鮎釣りが三度のメシより好き、という割烹料理店のオヤジがいた。甲府市の中心街に程近い所で店を構えていたのだが、世間が「釣りキチ」というほど、時には仕事そっちのけの釣り三昧。「釣りキチ」といっても、なぜか鮎しかやらない。夏場だけで、山女も岩魚も見向きもしないのだ。




 「うちのダンナ、少し叱ってやってくださいよ」



 そこの女将がよく言った。釣り三昧を責めているのではない。女将も釣りキチは認めるというか、諦めているのだが、この男は世に言う一風流の性格で、いい、悪いをはっきりしないと気がすまないタイプ。だから客とも平気でぶつかってしまうのである。



 「お勘定はいらねえ。帰ってくれ」



 そんな啖呵も珍しくはない。その代わり、板前としての腕は一級品。常連の客なら誰でもが認めるほどの腕を持っている。だから、固定客をしっかり掴んでいて、いつ行ってもそこそこの客がいた。そんなオヤジと若い私はなぜか気が合った。




 「今夜、暇? 暇なんかありっこねえよなあ。とにかく、旨いやつ食わせるから来いよ。早いうちなんて言わねえ。遅くなってもいいから寄ってよ。必ずだよ・・・」




 夏の夕方、このオヤジから職場に電話がかかってくるのだ。「この小忙しいのに、何言ってるんだ」と、一瞬思うのだが、オヤジの電話の先にある「旨いもの」が気になる。会社帰りに店を覗くのである。いつも午前零時を廻っていた


酒


 「待ってたよ。のれんはもう下ろしたが、さあ、座った、座った。あんた方の仕事、夜が忙しいんだものなあ・・・。俺も一緒に飲むか」





 このオヤジが用意してくれていた旨いものというのは鮎の「うるか」だった。


 「最初はビールだったよなあ~。うまい酒もあるよ」



 「このうるか、旨いねえ」



 「そうだろう・・・」



 「もっとくれよ」


 「バカ言っちゃあ、いけねえよ。これだけの、うるか、作るのに何匹の鮎使うか、分かっちゃあいねえな・・・」




 うるか、といってもご存じない方もお出でだろうから、ちょっと説明するが、一口に言えば鮎の内臓の塩辛である。鮎は小さいうちは虫などの餌を食べるが、大きくなるとそれをしない。食べるのは水蘚だけ。だから内臓が綺麗。川魚で内臓を好んで食べるのは、あまたいる魚の中で鮎くらいのものだろう。


鮎2


 釣れる鮎は大小あるが、所詮は鮎。一匹から取れる内臓の量は知れたもの。そのことを考えれば、貴重品に違いない。オヤジは言った。




 「これなあ、商品じゃあねえんだよ。いくら沢山釣ったからといって、そこから採れるうるかは、何ぼもねえ。それに伴う苦労も考えりゃあ、値段なんてつけられねえよ」




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やまびこ

Author:やまびこ
 悠々自適とは行きませんが、職場を離れた後は農業見習いで頑張っています。傍ら、人権擁護委員の活動やロータリー、ユネスコの活動などボランティアも。農業は見習いとはいえ、なす、キュウリ、トマト、ジャガイモ、何でもOK。見よう見まね、植木の剪定も。でも高い所が怖くなりました。
 ブログは身近に見たもの、感じたものをエッセイ風に綴っています。

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