定年退職と女房達

「やまびこさんは引退後、上手に生活されているようですね。うちの夫が定年後、家にずっといると思うと、ゾッとします(笑い)。毎日、通勤が大変で、辛いことも分かるのですが、毎日、出掛ける所がない、というのも辛いことでしょうね」


家


 東京にお住まいの方だろう。私のブログをお読み頂いている「らいり」さんからの、こんなコメントを拝見しながら、ふと、東京の知り合いのことを思い出した。もう20年近く前のことだが、会議か何かで上京した時のことである。後ろから私の名前を呼ぶ声がした。こんな東京のど真ん中で私を知っている人なんかいるはずがないと決め込んで、振り向きもせずに歩いていたら、息を切らすように駆け寄ってきた人に肩を叩かれた。


東京


 以前、仕事の関係でお世話になったことがある大手広告代理店の幹部だった。



 「冷たいじゃあないですか。後ろ姿で、あなたと分かったものだから、駆けて来たんですよ」



 「これは失礼しました。こんな所でお遭いするとは、奇遇ですねえ。ところで、今はどちらの部署に?」



 「私は来年、定年。言ってみれば、もう窓際なんです。だから定年後を考え、仕事が終わった後、料理教室に通っているんですよ」



 「料理教室?」


調理


 「そう。料理教室。私等、サラリーマンは40年近く、自分で飯を作ることも知らずに、せっせと働いてきた。付き合いゴルフぐらいのもので、これといった趣味も持たず、働くばかり。ふと、気づいたら定年。料理教室は趣味と実益の一石二鳥なんですよ。第一、同じような境遇の人達が集まるから面白い。競争も利害もないから妙に心も通じるんです



 「へえ~、そんなもんですかねえ~」



 「あなただって、その時になれば分かりますよ。毎日、家にいれば、そのうち女房だって、たまには自分でおやりになったら・・・なんてことを言い出しかねません。友達? 会社や仕事上の仲間なんちゅうものは、案外、その場限り。生活のリズムが違ってしまうんだから、趣味という共通項でもなければダメ。いずれ、友達関係は消滅しますよ」




この人はこんなことも言った。



「あなたのように山梨の地方に住んでいれば、恐らく、耕す土もあれば緑の自然もある。隣近所の付き合いも。でも、私等、鉄板一枚のドアで隣と遮断されたマンション暮らし。女房と二人きりになった、その様を想像してみてくださいよ」

東京2



東京の日比谷を歩きながら交わしたざっと20年前の会話。あっ、という間にその20年が過ぎた今、この人の言葉の一つ一つが頷ける。そして「らいり」さんが冗談とも本音ともつかないように言う「夫が毎日、家にいると思うとゾッとする」と言う言葉も、よく分かる。




「おじさん達、寂しいこと言ってるね、って?」。そう言う、お若い方々だって、遅かれ早かれ来る道なんですよ。ただ、不思議なことに夫婦喧嘩だけは確実に少なくなります。



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やまびこ

Author:やまびこ
 悠々自適とは行きませんが、職場を離れた後は農業見習いで頑張っています。傍ら、人権擁護委員の活動やロータリー、ユネスコの活動などボランティアも。農業は見習いとはいえ、なす、キュウリ、トマト、ジャガイモ、何でもOK。見よう見まね、植木の剪定も。でも高い所が怖くなりました。
 ブログは身近に見たもの、感じたものをエッセイ風に綴っています。

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