女は怖い
「お父さん、女を甘く見ると怖いわよ。言うことを聴かないと私だって、分からないわよ・・」
「おい、おい、脅かすなよ。酒が喉に引っかかるじゃあないか」
午後7時。テレビのニュースを見ながら晩酌をしていた私に向かって台所の女房が言った。ニュースは二つの県で起きている女性の殺人容疑事件を立て続けに伝えていた。いずれも、何人もの男を手玉にとって、お金を騙し取った上、殺してしまったのではないか、というのだ。いわゆる連続殺人事件の疑いで警察が捜査しているという。
私だって女は怖いと思って視ていた。女房はそれを見透かすように本音とも、冗談ともつかないような表情で言うのである。
その二つの事件の後にはさらに女子大生のバラバラ殺人事件が。世の中が活発に動くウイークデイ。注目の政治の動きもあれば、経済の動き、面白い話題だってある。いわば、この時間帯のニュースは、その日の出来事の集大成である。一つぐらいならまだしも、トップニュースから立て続けに、こんな殺伐とした事件が伝えられることは滅多にない。それも女が主役だ。
ヘンな世の中になったもんだ。つくづくそう思った。残念だが、これまでにも殺人事件と名の付く事件は山ほどあった。でも、その主役はほとんどが男。女がらみの事件も手玉に取るのは、いつも男だった。猟奇的なバラバラ事件も犯人が捕まってみれば、暴力団の組員など、これも男。女が主役になる事件は稀だった。
でも、そもそも女性にだって凶暴性が内在していないわけではない。昭和40年代の初めだっただろうか、山梨県甲府市の郊外で、こんな事件があった。地方にもモータリゼーションの波がぼつぼつ押し寄せ始めた頃だった。女房が亭主に多額の保険金をかけ、懇(ねんごろ)になっていた暴力団の男と図って、交通事故を装って亭主を殺した保険金詐欺殺人事件だった。警察の捜査本部は事件の発生現場に因んで「万歳橋殺人事件」と名づけた。
一見、貞淑な妻。暴力団。保険金詐欺。それに時代を反映した交通事故偽装。3拍子も、4拍子もそろった事件だったから、新聞はもちろん、当時の週刊誌は寄ってタカって書きたてた。交通事故を偽装した保険金殺人の全国第1号だった。今のようにテレビのモーニングショーや現場中継が華やかだったら全国的に知らない人はいなかっただろう。
それから数年後。群馬県の榛名山中で起きた赤軍派の大量惨殺事件。これも首謀者は永田何某という女だった。革命を前提に山梨県の大菩薩峠で行なった軍事訓練が摘発された後、連合赤軍は分裂して一部は「よど号」を乗っ取って北朝鮮へ。最も過激だったのが永田らのグループ。その延長線上にあったのが、あの「浅間山荘事件」だ。一方、中東に飛んでテロ事件の先頭に立ったのも女性。因みに「浅間山荘事件」はアポロの月面着陸と並んで今のテレビ中継の走りだった。世の中に半分はいる女性にお叱りを受ける覚悟で言えば、うちのかみさんが冗談交じりに言うように、やっぱり女は怖いのかもしれない。
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