プロの洞察力

望月春江
望月春江 : 泰山木


 「例えばですが、私は鯉を描こうとする時、鱗の一枚一枚まで数えるのです。木々が付ける葉っぱだって同じ・・・」




 ムチウチ症の治療のため、一週間に何度か通っている病院で、診察の待ち時間中、暇つぶしに眺めた中庭の池の中。そこに泳ぐ鯉を見ながら、ふと、ある老人を思い出した。老人といっては失礼だが、この方は日本画、特に花鳥画にかけてはわが国を代表する画家だった。画伯と言った方がいい。その名を望月春江といった。もう鬼籍に入って久しい。


望月春江写真
望月春江

 私が30歳の半ば過ぎ、会社の東京支社にいた若造の時分だから、もう30年ぐらい前になる。山梨の同郷のよしみということもあったのだろう。仕事でお目にかかったのをご縁に、なぜか可愛がって頂き、お宅にもよくお邪魔した。アトリエを兼ねたお宅は上野の池之端という所にあった。不忍池のすぐ近くだ。庵といった方がいいかもしれない。





 「鯉の鱗一枚まで・・・」「葉っぱのスジまで・・・」。何気なく、穏やかに話すお顔を拝見しながら、私は目に見えない斧で頭をガツ~ンとやられたような思いをした。あっけらか~ん、と言えばまだ聞こえがいいが、のんびり生きている自分を省みたからだ。のんびりというのもちょっと違うかもしれない。サラリーマンの、仕事の、「忙しさ」と言う隠れ蓑を被って、ややもすると目先だけで動き、本質を見失いかねない自分がいたからだ。


美ヶ原
望月春江 : 美ヶ原


 プロはすごい。「へえ~、すごい絵だなあ~」と、思いながらも、素人が当たり前のように見る一枚の絵。そこには限りない観察力と緻密な計算があったのだ。木一本を描くにも漫然とではなく、緻密な計算と奥深い観察をする。例えば、そこに幾つもの架空の点と線を引いては枝と葉っぱの関わりなどをつぶさに観察するのだという。鯉だって同じ。泳ぎ方の一部始終を見、その仕組み、構造まで摑んでしまうに違いない。





 その観察力が限りない洞察力に繋がっていくのだろう。そんな望月春江にかかれば鯉一匹、草木一つが本物より本物らしく、生き生きと生まれ変わるのである。俺達凡人には逆立ちしたって出来っこないのだが、プロには、それをやってのける日頃の鍛錬が導く、研ぎ澄まされた洞察力があるのだ。画家ばかりではない。音楽家だって、役者だって、物づくりのプロだって、みんな同じに違いない。凡人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえ、また感じないものが感ずるのだ。


惜春
望月春江 : 惜春

 お茶を、時にはお酒を頂きながらの私に、いつものように穏やかに話す画家・望月春江は、ある時、こんなことも言った。



 「あらゆる動物がそうであるように、人間も事あるごとに群れたがる。でも私はそれが嫌だった。だから、いずれの派閥にも属さず生きてきた。それが良かったか悪かったか・・」



 その口元には貫き通した信念とは裏腹に一抹の寂しさのようなものが・・・。




 病院の中庭で見た池の鯉も群れていた。人が近づけば群れていた鯉は我先にとそこに集まって来る。餌を求めてだ。しかし、不思議なことに一匹や二匹、その群れに入らないヤツがいる。でも、よく見ると寂しそうに見えるその鯉は悠然と、むしろ輝いて見えた。


鯉


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やまびこ

Author:やまびこ
 悠々自適とは行きませんが、職場を離れた後は農業見習いで頑張っています。傍ら、人権擁護委員の活動やロータリー、ユネスコの活動などボランティアも。農業は見習いとはいえ、なす、キュウリ、トマト、ジャガイモ、何でもOK。見よう見まね、植木の剪定も。でも高い所が怖くなりました。
 ブログは身近に見たもの、感じたものをエッセイ風に綴っています。

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