女性を狙え!
サントリー登美の丘ワイナリーHPより
40代に入ったばかりの頃だった。あるワインメーカー、悪いことではないので、ここでは名前を出してもいいのだろう、サントリー社に招かれてワインの試飲会に出させていただいたことがある。今は呼び名がちょっと変わったが、山梨県の北部・北巨摩郡双葉町(現在の甲斐市)に「登美の丘ワイナリー」というのがあって、そこが試飲会の会場であった。
言うまでもなく、サントリーはウイスキーと共に我が国ワイン業界の草分け。登美の丘ワイナリーは、その拠点農場。八ケ岳の向かい側・茅が岳山麓にある登美の台地に広大な試験農場を持ち、名実ともにワイナリーとしての機能を発揮しているのである。ひと頃、サントリーが大々的に売り出した「貴腐ワイン」も、この試験農場から生まれたものだ。
試飲会に顔を揃えたのは10人ぐらいだっただろうか。いずれもその世界の専門家ばかり。始める前の自己紹介によれば、ワインに関わる技術者や学者たち。ワイン評論家もいた。門外漢は私だけであった。いわば「素人の代表」ということだったのだろう。
審査員は主催者が用意した白衣姿。テーブルの上には幾つものワインのボトルが並ぶ。いずれも表示は何一つなく、区別のための番号だけ。審査員は、その都度違った容器を使っては香りをかぎ、口に含んでは味や風味を確かめながら、審査を進めるのだ。
私の場合、所詮は素人。口に含むだけでは「もったいない」とばかり、みんな飲んでしまうのだ。子供の頃から«盗み酒»で鍛えた自信?があったこともある。第一、ワインに限らず、お酒は「のど越しの味」を楽しむもだと思っていたからだ。まあ、そんなことはどっちでもいい。審査員は与えられた審査表に、それぞれの採点や感想を記していく。
画像:登美の丘ワイナリー
審査結果。私の審査は他の審査員に比べて、厳しいものだったという。ストレートと言った方がいい。後に、審査委員長でもあり、事務局の立場にもあった同ワイナリーの農場長・大井一郎さんは、こんなことを言った。大井さんは農場長というよりワイン学者。何故か以前から懇意にさせていただいていた方だった。残念ながら、もう故人となられて久しい。
「あなたの意見は、ワインを知っている人の声。ワインを飲み慣れている方の声、と言った方がいいかも知れません。特徴や弱いところをズバリ指摘された気がします。でも、私たち造る側からすると、«売れる»ものでなければならないのです。ワインを好きだったり、飲み慣れている人の評価と«売れる»ものとは全く別もの。私たちメーカーのターゲットは«素人さん»なのです」
親しいお茶のみ話で語った大井さんのひと言にハっとした。今風に言えば、主催者が何を求めているかの「忖度」が全くなかったのである。大井さんによれば、消費拡大のターゲットは女性。お酒を飲む習慣のない奥様層や若い女性にワインを飲んでもらったり、身近なものに感じてもらうことが消費拡大の絶対の条件だというのだ。試飲会はそれを探ることにあった。
「美味い」はもちろん「飲み易い」ものであり「上品な味」でなくてはならない。「コク」だの「キレ」などは二の次、三の次だという。確かにそうだ。世の中、半分は女性。ワインに限らないが、女性の支持なしにどんな消費も拡大しまい。家庭でも夕餉の食卓を支配するのは、かあちゃんだ。女性への「忖度」を欠いたら家庭ばかりか、社会は成り立たない。
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