華やかさ醸す夜
フォーマルナイト。船内は、なんとなく華やかな雰囲気に包まれるのだ。服装とは不思議な魔力を持っている。七五三のお祝いや入学式、また大人達の結婚式やお葬式、服装がそれぞれの雰囲気を作る。
日常の生活でもそうだ。朝起きたままのパジャマ姿でダラダラしていれば、何となく体も心もシャッキッとしない。反対に、それなりの服装を整えれば、それにあった行動に移れるのである。例えば、地下足袋を履き、野良着に着替えれば、農作業への気合いが入る。スポーツウエアーもそうだ。
職場をリタイアして「毎日が日曜日」になった頃だった。ネクタイを締めない朝に違和感を覚え、一日中、“首がスウスウ”して仕方がなかったものだ。カジュアルウエアの生活が、何か落ち着かないのである。あれから7年。そんな生活にすっかり慣れた。
船に戻る。フォーマルナイト。それぞれのエントリーで、バスでのエクスカーションを楽しみ、船に帰って来た人たちは、それまでのカジュアルウエアを脱ぎ捨てて、フォーマルウエアで部屋を出て来るのである。男性はスーツにネクタイ。タキシードに蝶ネクタイで、スマートに決めた紳士も。女性はイブニングドレス。
カジュアルウエアの時と違って、なぜか背筋がピーンと伸び、その振る舞いや笑顔にも気品が出てくるから不思議。
MSCクルーズより
「お父さん、私たちも写真、撮ってもらいましょうよ」
イブニングドレスとまではいかないまでも、おめかしした“つもり”の女房はそんなことを言った。
フォーマルナイトを当て込んで、船内には、にわか作りの写真スタジオがお目見えする。広いバーラウンジのしゃれた階段や通路のちょっとしたスペースを利用しての“スタジオ”。傘を使った照明や、海や船など風景を描いたバックスクリーンをしつらえただけのラフなもの。出来上がった写真は翌日、通路脇の展示コーナーに掲示。コーナー脇のカウンターでお気に入りのものを選んで購入するのである。
専属のカメラマンは手慣れたもので、手際よくポーズを作らせてパチリ、パチリ。もっとほほえましいのは、被写体となる“お客さん”たち。何事もフランクに振る舞う欧米人は、抱き合ってほほえんで見せたり、頬ずりをするご夫婦も。若者ばかりでなく、シニア達も自在に演技するのだ。
一方、山梨の野暮天夫婦。そんなことが出来るはずもない。そこは先刻、ご存じのカメラマン氏。さりげなく、それも有無を言わさずポーズをとらせ、あっという間に何カットかの写真を撮ってしまうのである。40年以上も前の結婚式はおろか、娘の七五三や成人式など女房と写る写真は決まって“棒立ち”。考えてみれば、へんからはない。
「お父さん、やっぱりプロねえ。うまく撮れていたわ。みんな買ってきちゃった…」
翌朝、展示コーナーから嬉しそうな顔をして戻ってきた女房を見たら、「バカっ」と言えなかった。
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