リハビリと二枚の張り紙

リハビリ室  


 山梨県甲府市の郊外とも言える石和温泉郷にある温泉病院。そこのリハビリコーナーの壁に張られていたもう一枚の張り紙。別のもう一つの張り紙と同じようなイラスト付きの大きめな紙に、色紙のように優しい独特の筆調で書かれていた。




 「みんな苦しみながら大きくなっていくんだよ。みんなどんなに辛い思いをしたかわからないんだよ。ただ、それを言葉に出さず、じっと耐えてきたんだよ」


みんな苦しみながら大きくな



 二枚とも注意しなければ見落としかねないようにさりげなく張られている。最初の一枚「行けるるところまで行くんだよ。やれるところまでやるんだよ。・・・」「努力」をキーワードにしているとしたら、こちらキーワードは「耐える」だ。その文面は続けて、こうも言っていていた。





 「自分に負けるのが一番弱い人間なんだよ。苦しい時はみんな苦しいんだよ。その時、明るく笑顔で行きぬく人が強い人間なんだよ」


景色

 ムチウチ症治療のための首の牽引、局部のマッサージ、ハリ治療を終えてリハビリ室を出掛けに、この張り紙を眺めていたら、受付の可愛いお嬢さんが、こんなことを言った。


 「同じように、この張り紙を一字一句眺め、中にはメモして行く方もいるんですよ」



 私もそうだが、この二枚の張り紙がさりげなく語りかける言葉が、そこを訪れる患者達の目を止め、「そうだ。その通りだ」と思わせるのだろう。みんながみんな俺は、私は「どんなことをしても病や患部を治すんだ」という強い決意決にも似た「闘争心」を呼び起こすのだ。



富士温泉病院2   


 当たり前のことだが、人間、健常時にはこんな「闘争心」を起こさないし、起こしようもない。しかし、病に犯されれば、人は皆、何とか早く治し、元通りになりたい一心で闘おうとする。いわゆる「闘病」と言う言葉がそれだ。病と闘う強い意志がなかったら病気は治らないし、やがての行く先は幾つもない。



リハビリ室2


 病がひどければひどいほど、苦しかったり、切なかったりすればするほど、「藁をも」「神にも」すがりたくなるのが人情だ。その一方で同じように病や疾患を持つ人達への理解も生まれる。ちょっとニュアンスが違う例もあるかもしれないが「同病相哀れむ」の例えがそれである。




 「どうされましたか。私は打ちっ放しの練習場で首をひねっちまって・・」


 リハビリの待合で首にカラーギブスを巻いた同年輩の男性が、自らのトンマが原因でムチウチ症を患っている私に話しかけてきた。「え~、ゴルフの打ちっ放しで首を・・」。私のように不注意が招いた事故もあれば、こんな想定外の事故もある。




 「闘争する心」。健常者にも病を患う弱者にも、そこには共通して「目標」がある。アスリートは記録への挑戦であり、サッカー、相撲、ボクシングなど格闘技の選手たちは、立ちはだかる相手を倒すために果敢に戦う。患者が病と闘うことは言うまでもない。両者のもう一つの共通項は、リハビリ室の壁にあった二枚の張り紙が患者達に語りかけていた文面のキーワード「努力」と「忍耐」のように思えた。




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初体験のMRI検査

MRI.jpg
MRI


 MRI検査。初めての体験だった。まるで棺に横たわり、火葬の炉に入って行く仏の気分のようだった。「バカ言うんじゃあねえよ。そんなこと体験したヤツがいるわけねえじゃねえか」。その通りだ。世界中に火葬の炉に入った経験をお持ちの方はお一人としていない。例えが悪い、とお叱りを受けるかもしれないが、正直、そんな気分になった。



ムチウチ



 私の場合のこの検査は、ムチウチ症を治療するための手段である。備え付けの手術台のような台に横になり、頭を固定されたうえでドーム状の狭い空間の中に押し込まれていく。その中は真っ白。しばらくすると断続的に大きな音がする。それを何回も繰り返すのだ。「ブー」「ブー」。「ブ~」「ブ~」。「ドゥー」「ドゥー」。ドームの上からなのか、下からなのか分からない。三種類ぐらいの音が聞こえてくる。お世辞にも快適とはいえない響きだ。





 MRIとはMagnetic Resonance Imagingの略。磁気共鳴画像というのだそうだ。「いい歳をして・・・」と笑われるかも知れないが、MRIもレントゲンと同じように放射線検査だと思っていた。MRIの頭文字が持つ意味が分かれば磁気によるものくらいは分かるのだが、検査を終えて身支度をしている間にしてくれた検査技師の説明に「なるほど」と思った。




MRI2.jpg



 検査技師さんの説明によれば、機器から出す磁気と電流、それに検体である人の身体に流れる電流が絡み合って画像となる。検査機器を操作するのにへリュウムを使うのだそうだ。検査中、断続的にする大きな音はそのための音だという。ニコニコしながら話してくれる技師さんの説明に「へえ~」と頷いてはみたものの、自分でひっくり返って怪我をし、ヒイヒイ言っているトンマな田舎者に物理的な理屈なんて分かるはずがない。





 分かったのは放射線を使って検査するレントゲンと違い、こちらは磁気を使っているということだ。だから入れ歯に至るまで金属類は全て取り除く。医療機器の進歩は目覚しい。自分が直接その恩恵にあずかる患者の立場になると、いやが上にも、それを実感する。巷に結核患者が少なくなかった子供の頃、胸部レントゲン検査のフィルムを見て、すごいことが出来るものだと目を丸くしたものだ。魔法にも似た不思議を感じたものである。



病院



 ところがどうだ。今やレントゲンなんか当たり前。例えば人間ドックに行って胃の検査をするとする。苦しいというか、嫌な思いをして胃カメラを飲むよりバリュームを飲んでのレントゲンの方が・・・と、一瞬思うのだが、どうしてか内視鏡検査を。そんなことを思うのは私ばかりではないだろう。バリュウムによるレントゲン検査で疑問点が見つかった場合、もう一度、内視鏡検査をしなければならないことを知っているからだ。その内視鏡のカメラや管の大きさ、太さはかつての半分、いや、それ以下になった。



胃1




 「頭でも何でも輪切りして悪い所(疾患)を見つけてしまうんだってよ」



 CTスキャナーが開発された時、特に脳疾患を持つ人達や、その関係者は一様にびっくりしたものだ。恐らくMRIはその上のレベルを行くのだろう。私のムチウチ症をブログで知って見舞いの電話をしてくれた友は近く、肝臓のMRI検査をするのだという。一方、ブログの威力もすごい。ロータリークラブでご一緒させて頂いている仲間達にも心配をかけた。





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人間ドックのトラウマ

人間ドック2


 人間ドックは毎年欠かさず受けている。現役時代は会社の厚生担当が否応なくスケジュールを組み、ドック入りを促すので、いわば待ったなし。職場をリタイアした後も年に一度のドック入りは守っている。現役時代は会社の同僚達と一緒だったが,今は女房と一緒。「お父さん、いつが、都合がいいですか?」。女房が我が家の厚生部長。みんな段取ってくれるのだ。


 

 病院は甲府市内。今は娘夫婦に譲ったが、現役時代住まいしていた家のすぐ近く。長く親しくさせていただいている公立病院の院長が定年後、天下り?した病院。ドックもそこに変えた。JA関係の団体病院で、詳しいことは分からないが、どうやら人間ドックが主力の病院のように見える。


人間ドック



 医療設備にとどまらず、そのためのシステムやスタッフも充実していて、実に気持ちがいい。ちょっと見では、毎日100人を超す検診をこなしている。医師をサポートするスタッフもしっかり教育されていて、受診者を手際よく裁いている。みんな若い女性。愛嬌よく振る舞うから、緊張気味の受診者にとってみれば、心が和むのだ。


 人間ドック3


 元公立病院院長の“天下り”に着いて来たのは単なる親しさからだけではなく、診察の全てに誠意を持って看てくれるからだ。そんな先生だから人気は抜群。公立病院時代は誰が言うともなく、その先生の名前をとって「○○銀座」と言われるほど患者が列を成した。




 専門は消化器内科。今でも,この先生にお願いしているのは胃カメラの検診。これには、ちょっとした訳がある。現役時代のことだ。そう言っては、我が儘に聞こえたり、第一、失礼だが、私に胃カメラを飲ませてくれる先生は、“下手くそ“ばかり。見るからに“新米”で、それも何故か若い女医さんばかりだった。




 カメラを押したり、引いたり。胃袋の中を不器用にかき回すのである。ある時は、その女医さん。カメラの管を持つ手をブルブル震えさせながら「これなあ~に、これなあ~に…」と、子供のように大騒ぎ。私の胃袋の中にアニサキスの幼虫がいたのである。それを始めて観た女医さんが動転したのも分からないでもないが、カメラを突っ込まれている私の身にもなってくださいよ。それも不器用に腹の中をかき回した挙げ句である。 騒ぎは検査室全体に波及したことは言うまでもない。。


病院


 この後にも当事者の私なら笑うに笑えない話があるのだが、ここではあえて省略する。とにかく、そんな話を親しい開業医と酒飲み話にしたら「あなた、そんなことは当たり前だよ」と、一笑に付された。そのドクター氏はこんなことを言った。




 「どんな名医だって“始めて”があるんですよ。経験を積んで名医になるんです。もちろん、重症患者に新米を充てるようなことはしません。はっきり言わせて貰えば、あなたのように肥っていて、鈍感そうな人には、新人を充てますよ。あなただって、もし、医療現場のチーフなら、そうするはず。まあ、医療の発展のためさ…」



 「オイオイ、そうするとオレは新米先生の練習台なのかね?」


 何度もでっくわした新米先生の胃カメラ。今でもそのトラウマは消えない。(次回に続く)





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内視鏡とアニサキス

病院

 人間ドック、内視鏡、病院。こんなキーワードを耳にした時、私は必ず、と言っていいほど、ヘンな体験を思い出す。もう何年も前のことだ。甲府市内のある社会保険病院で、人間ドックを受診した時のことである。いつものように手術台のような硬いベッドに横になり、黒い管の胃カメラを飲み込んでゲエ~、ゲエ~しながら脂汗を掻いている時だった。




 「あれ困ったわ。コレなあ~に。これなあ~に。いやだ~」





 私の検査を担当してくれた若い女医さんは突然、大声を上げて、動転しはじめたのだ。結果的には、私の胃袋に、それが一匹であるかニ匹であったかは分からないが、アニサキスという虫がうごめいていたのだ。自分の立場も場所も忘れて動転してしまったのだから、この女医さん、はじめて見たアニサキスによほどびっくりしたのだろう。

 

 そのこと自体は分からないでもない。でも、腹にカメラを突っ込まれて苦しい思いをしている私にとってはたまったものではない。女医さんの内視鏡を持つ手は小刻みに震えていた。これをお読みになっている皆さんには、その双方の光景が容易に想像できよう。




 私は、ただ唖然とするばかり。何が起きたかすら分からない。それを聞いてみようにも太い内視鏡の管を口から突っ込まれているので、口も聞けないのだ。内視鏡室では何人もが検査を受けていた。私と同じようにみんなが、何が起きたかも分からず、カメラの管をくわえたまま「いったい何事が起きたのだろう・・・」と思ったに違いない。



胃1

 当然のことながら、何人もいる先輩医師が黙って見ているわけはない。いかにもベテランらしい医師がすっ跳んで来て、今にも検査を放り出しそうな女医さんに言った。



 「先生、これアニサキスと言うんです。初めてでしたか。あとで取り出して患者さんに見せてあげてください」




 アニサキスという寄生虫の名は、このとき始めて知った。恐らく、一生忘れる事の出来ない名前だ。鯖やホタルイカなどに寄生する虫で、マグロなどにもいるのだそうだ。口の悪い仲間によると、寿司屋さんの舞台裏では、このアニサキスをピンセットで取り除く光景だって決して珍しくない。鯖を酢でしめるのは、ひとつにはこのアニサキスを退治するためだそうだ。因みに、人間の身体に入ったアニサキスは胃酸でやがては死滅するという。




 先輩の先生に、落ち着くよう言外に促された女医先生はやっと平静を取り戻したのか検査を再会。しかし下手くそは変わらず、カメラの管を私の胃袋の中で押したり、引いたり・・・。




 やっと検査が済み、拷問から開放されたような気分でベッドを降りた。ホッとしながら検査の所見を丁重に尋ねた。医者に悪態は損。結果は「異常ありませんね」。「ところでアニサキスは?」。「ああ、あれ。いないわ。カメラを抜く時、落としてしまったのかしら・・」


エコー
 

 これにはまだオチがある。すべての検査を終えて人間ドックの会計窓口に行くと「あなたは治療費がありますので本会計の窓口へ」と言うのである。アニサキスを除去したと言うのだ。検査と治療。検査の帰りにアニサキスを連れ帰ったのは立派な治療だという。そうだとしても俺、アニサキスの顔なんか見てねえんだけどなあ~。なんだか腑に落ちなかった。





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メタボ人間とビール

ビール


 「お父さん、昼間から、飲むの、止めたら・・・」

 山梨県地方もここ連日、30度を超す猛暑続きだ。畑仕事から帰り、汗びっしょりの身体をシャワーで流し、昼飯を食う。その前のビール一杯がなんと旨いことか。サラリーマン時代、会社帰りによく行ったビヤガーデンの生ビールよりはるかに旨い。当然のことながら、夜も飲むのだから、昼間は飲まない方がいいに決まっている。


トマト



 仕方がなくやる農作業の一方で、頭の隅では「汗をかき、身体を使うことで、多少なりともダイエットが出来、メタボの改善に繋がれば・・・」と、淡い期待もあるのだ。そんな私の心のうちを見透かしている女房だから、ブレーキをかけるのは分かりすぎるほど分かる。


ビール2


 「いくら汗をかいたって、ビールを飲んじゃったら元の木阿弥。ダイエットになんかなりませんよ。まったくっ・・・。意志が弱いんだから・・・」




 その通りだ。内心、そう思うし、私の身体を気遣う女房の心の内をありがたくさえ思う。しかし、私の口を突いて出る言葉は違う。




 「バカ言え。シャツを搾るほど汗を掻いているんだから、ビールの一本や二本、どうってことねえよ。第一、お酒は旨い時に飲むのが一番なんだよ」




 ヘンな理屈である。日曜日で勤めが休みの時なんか、娘も一緒になって


 「お父さん、お母さんの言う通りよ。言うこと聞かなければダメよ。お父さんの体考えているんだから・・・」




 なぜか娘にいわれると弱い。女房のブレーキより効く。タバコのブレーキと同じだ。



ジャガイモ


 自分では、汗を掻く、と言うのだが、一日中でも日差しが最も強い昼日中に野良仕事をするなど、愚のごっちょうなのだ。しっかりした農家は、今時だと午前4時ごろの夜明けを待って畑に出て、暑くなる前の8時、遅くも9時には引き上げてくるのである。





 「こんな暑い時に畑にいたら身体に毒ですよ」




 いつも近所の人から注意を受ける。注意と言うより笑われるといった方がいいかもしれない。しかし、ぐうたらオヤジ、長い間のサラリーマン時代のくせが簡単には抜けないのである。夜更かしなら何時だって平気。だが、早起きとなると、からっきしダメなのだ。勢い、ちゃんとした農家が半日分の仕事を終えて帰ってくるころから、こちらはようやく畑に。暑い最中の仕事、と言う悪循環である。「ええ~い、これもダイエットのためだ」とばかり、ペットボトルの水をがぶがぶ飲みながら頑張るのだ。


プチトマト


 農村地帯でも夕方や夜、ウォーキングをする人達が増えている。肥満防止やダイエットのためだ。糖尿病の改善を狙っている人もいる。機械化が進み、農業もかつてのように力の仕事ではなくなった。畑に行くのは軽トラック、除草や耕運も機械。買い物など普段の用事はもちろんだ。実は田舎の人間ほど歩いていないのである。メタボの量産は田舎から、と思えるくらいだ。俺のやり方は、一足早く原点に・・・などと悪あがきをしてもみた。






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おきてがみ
プロフィール

やまびこ

Author:やまびこ
 悠々自適とは行きませんが、職場を離れた後は農業見習いで頑張っています。傍ら、人権擁護委員の活動やロータリー、ユネスコの活動などボランティアも。農業は見習いとはいえ、なす、キュウリ、トマト、ジャガイモ、何でもOK。見よう見まね、植木の剪定も。でも高い所が怖くなりました。
 ブログは身近に見たもの、感じたものをエッセイ風に綴っています。

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